地域活性化「住み、働き、消費する街に」
第9回産業論文コンクール 優良賞
ユニチカリアルティ(株) 岡本広志さん
地域活性化「住み、働き、消費する街に」
企業のグローバル化が進められている一方、「地域活性化」や「町おこし」というワードも頻繁に聞くようになった。過疎化や高齢化が進んでいる地方都市などが多く、地元企業や住民の手によって街に再び活気を取り戻そうという動きだ。ピンチは転じてチャンスとなる。外に目を向けるだけではなく、内にある消費や埋没している資産を活用し、隠れた需要を掘り越すのだ。この地域活性化についての問題点や課題、その対策などについて私の考えを述べたい。
私が勤める会社は、大和高田市にある老舗のショッピングセンター(以下SC)を管理運営している。商圏は主に近隣の住民で、地域密着型のSCだ。近年、大型SCや大型スーパーマーケットが近隣に建設され、我々の取り巻く環境は厳しい。しかし景気回復の兆候が見えたとはいえ、経済状況が厳しいのは小売業を始め、どこの企業も同じである。当SCの最寄り駅である近鉄大和高田駅には、近鉄大和高田駅前商店街があるが、現在は多くの店がシャッターを閉めたままとなっている。近鉄大和高田駅は大和高田市の中で利用客数が最も多い駅であり、近くには大きなロータリーがあり、バスターミナルもある。比較的恵まれた立地でありながら、駅前商店街及び当SCは活気を呈しているとは言い難い。その要因は大和高田市の人口が減少していることや、高齢化の影響も多くあるだろう。しかし、人口の減少は需要の絶対数の減少であり無視できないが、高齢化に関して言えば、商品やサービスを高齢者向けに転換していけば十分に収益をあげられるはずだ。さらに言えば人口の減少自体を抑え、大和高田市を住みたい街、住みやすい街へと改革していかなければならない。私が暮らし働いている街でも地域活性化についての議論は必要だと思う。
単純に地域活性化と言っても一企業だけの力だけでは限界がある。地方自治体がリーダーシップを発揮し、明確なビジョンを提示することにより、地方企業をまとめ、地域の発展に導いてゆくことが必要である。地方自治体や地方企業の足並みを揃えた動きが重要であり、それが地域活性化への第一歩である。
商店街を例に挙げれば、空き店舗をなるべくなくし、企業や商店を多く誘致しなければならない。すなわち多くの競争相手を一つの地域に集めることで、シナジー効果を生み出し、多くの顧客を呼び込む。一企業の発展ではなく、その地域を発展させることで各企業が恩恵を受け、WIN=WINの関係を築くことが必要である。それには地域企業が集まってコミュニティを作り、共同で計画的に進めて行くことが必要である。そこで各企業の間を取り持って、上手くまとめていくのが、地方自治体の役目といえる。
だが、今の地方自治体にその役目が担えるのだろうか。確かにそもそもの役目は行政であり、民間企業を主導する立場ではないが、人口減少や税収減を鑑みると、ただ事の成り行きを見守るだけとはいかないのではないだろうか。地元住民や企業の要望を受けてから動く受動的な姿勢ではなく、積極的に関わり、提案していく能動的な姿勢が必要であり、民間企業と同じく景気や時代のニーズに敏感に反応し対策を打ち出していかなければならない。それにはゆるキャラなどの安易な方策ではなく(成功事例もあるが)、地域の特色を活かした独自策を打ち出してゆくことが必要だ。
しかし効果的な対策を打ち出していくのは容易なことではない。だがリーダーシップを発揮することは可能だろう。利益を追求する民間企業ではないからこそ、各企業の間を取り持ち、先ほど述べたように明確なビジョンを提示してゆくことは十分可能である。
その為にまずは地元企業同士で意見を交換できる場を積極的に設けるべきである。最初から具体的な案が出てくることは難しいが、地域について各々が話すことで、強みや弱みが見えてくる。そして話し合いだけでなく、近隣に直接足を運び、歩き回ることも大事だ。実際に見て回ることにより問題点や、地元住民が不便と感じていることもわかるし、人の動きも見えてくる。
ここで一つ問題になりがちなのが、内輪だけの盛り上がりだ。地元企業同士になると、昔からの繋がりもあり、おざなりになりがちである。積極的な意見が出ず、互いの弱点や弱みを指摘しさらけ出すことが出来なくなる。また施策が保守的になりやすく、抜本的な改革に至らないことが多い。
その打開策の一つとして提案したいのが、若い世代の活用だ。年齢が上がるに連れどうしても保守的な意見になりがちであり、変化をあまり望まなくなる。しかし時代のニーズが日々移り変わるのは当然であり避けられない。そこで幅広い世代、特に若い世代からの意見を積極的に取り入れるべきではないだろうか。
だが今の私の世代、20歳から30歳あたりの世代にも問題はある。離職率も高く、入社して数年で辞める者も少なくない。また公務員等の安定的な職業への求職率の高さも目立つ。そういった仕事への活力やエネルギーを感じられない若い世代に期待できないという意見も出てくると思う。
しかしこの産業論文コンクールに挙げられるように、自身の意見を持ち、仕事を学び、積極的にチャレンジする若者も多くいる。こういった自分の意見を述べる場や、アピールする場を積極的に設けることが必要だと思う。特に今の若い世代は受け身な態度になりがちなので、消極的な人間だと割切らず、企業内でも意見を引き出す仕組みを積極的に設けるべきである。大企業とは違い中小企業は規模も小さく従業員も多くない。だからこそ若い内から責任のある仕事が出来、仕事と深く関わってゆく環境が出来ている。こういった環境を活用し、若い世代のエネルギーや意見を地域活性化の原動力とすべきである。
また地元の大学などとも積極的に交流してゆくべきだ。大学生が中心となってイベントなどを企画することで、新しい考えを取り入れることが出来るし、大学生を中心とした若い世代の需要も見込めるだろう。また大学からの立場としても、学生の自主性や創造性が養われ、実際に社会人となる前の貴重な経験となるはずだ。
そしてもう一つの打開策は、地域活性化の主導を外部の企業や団体に委託することである。地域の強みや弱みはそこに長年住んでいる程見えにくくなるが、外部からの刺激が入ることで意見も出やすくなる。つまり、地元以外の者に説明する状況を創ることで地域の特徴を整理することが出来る。また、どの企業や個人の意見も主観的にならず平等に聴けるので、地元の者だけの話より不満や問題点を引き出しやすい。
だが委託企業はあくまでも主導するだけの役割であり、完全に委託し、任せ切りではいけない。地元の企業や住民の考えた意見をまとめ、効果的な施策を提案実行していかなくてはならない。これは地方自治体主導の場合にも言えることで、「税金を払っているのだから役所の仕事だ」という考えではなく、地域住民や企業が自ら立ち上がり動かなくては意味がない。それを後押しし、サポートするのが地方自治体であり、委託企業の役割なのである。
今、地域活性化による恩恵は大きいと思う。内にある需要を呼び起こせば自然と雇用も増え、インフラの整備も進むだろう。そうすれば近隣に居住者も増える。住み、働き、消費する。一つの地域でこういった好循環が生まれるのである。今の若い世代には仕事に好収入や好条件を求めるのではなく、やりがいや社会的貢献を重視する者も増えて来ている。地域貢献に寄与する職業も魅力的に映るのではないだろうか。
そして子どもにも目を向けたい。子どもが参加できる行事を積極的に行い、子どもを多く集めたい。子どもが集まる処には活気が出るし、その家族も多く集まる。また、自分の住んでいる処についてあまり知らない子ども達も多いと思う。地元の良いところを知ってもらう良い機会となるはずだ。
地域活性化はあらゆる世代との繋がりができるので、希薄なコミュニティも密になってゆく。これは近年頻繁に起こっている自然災害などの緊急時の対応などにも活かされ、高齢者の孤立の防止にも繋がるなど、その恩恵は多岐に渡るはずだ。
これはあくまでも理想の姿であり、事は容易には進まない。しかし何事も最初の1歩から始まる。この論文を理想への最初の1歩として、自分の育った街の為に出来ることから始めていきたい。