選ばれるモノづくりを
第9回産業論文コンクール 優良賞
田村薬品工業(株) 宮上沙貴さん
選ばれるモノづくりを
アベノミクスという言葉が世間で広く使われ始めてから半年あまり、毎日のニュースで耳にする機会も多く、すっかりお馴染みの言葉となった。諸外国もこの政策の及ぼす日本の経済動向に注目し、英語でも“Abenomics”などという言葉で報道がなされている。
アベノミクスでは大きな政策として3項目を掲げ、うちの項目の1つに金融政策としてインフレ目標を定めた。この影響により、現在でも一部の食品や電気・ガスなどで値上げされたものがある。一方で、この物価の上昇に消費者はついていけるのか。「安くてそれなりのモノであればよい」デフレ不況の時代を長く経験している私たちには妥協してモノを選ぶ考え方が浸透してしまっているように感じる。このような市場では、物価の上昇は消費の抑制に繋がってしまう可能性があり、経済の見通しも明るいものとは言えなくなってしまう。
私は、このような状況にある今だからこそ我々モノづくり企業としての真価が問われていると感じる。「これでよい」ではなく「これがよい」と、必要だと選ばれる品質の高いモノを提案・開発していくことが、モノづくりに携わる者に求められていることではないだろうか。
では、そのような価値のあるモノを作り上げるためにはどのような姿勢で仕事に取り組むべきなのか。私は、以下の2つの点を意識していなければならないと感じる。
1つ目は、問題点を考え続ける、ということである。
ただ目の前の仕事を終わらせることだけを考えるのではなく、どうすればより良くなるか、些細なことにも問題意識を持って取り組むことが大切である。
私が当社に入社し、自社製品の配合成分の分析を行うという現在の部署に配属されて約半年になろうとしている。しかし、機器を用いて特定の成分を分析する、という大学や大学院で3年間続けてきた研究とは分野の異なる仕事に、新しく覚えなければならないことも多く、余裕なく仕事を終える日が続いていた。
そんな中、部署の上司との面談があり、その中の質問の1つとして「部署内での問題点として何か感じるところはないか」という問いを受けた。目の前の作業をこなしていくことにしか目が向いていなかった私は、すぐにその質問に答えることができなかった。その時、自分は受け身で作業をしているだけで、能動的に考えて取り組んでこなかったことを後悔した。そして「何か問題点はないか、向上を図ることはできないか」という意識を自分の中に持ち続けて仕事に取り組んでいくことが大切であると強く感じた。
例えば“Aという試薬を加えてBという操作をする”という指示があった時、なぜAを加えるのか、何のためにこの操作を行っているのかという作業の意味をしっかりと考えずに進めた場合、何気なく見落としていることが大きな問題点に繋がってしまうことがある。そのことを意識するようになってからは、朝の時間や作業の合間に疑問に思ったことはすぐに調べ、理解して作業に取り組むように心掛けている。
2つ目は、できないで終わらせるのではなく最後までやりきり結果を出す、ということである。
分析の試験の結果が何度やっても理想的なものにならなかった時、「もうこれで良いだろう」と妥協してしまいたくなることがある。学生時代はそれが許容されていた。ほとんどの物事は自分一人で完結しており、結果と同時にどのようなプロセスで、何を考えて取り組んだのか、ということを込めて評価をしてもらえた。しかし、仕事となるとまず結果を見られる。これだけやったけれど出来なかった、というのは通用しないのだ。出来ないのならばどうすればできるようになるかを考え、結果を出さなければならない。
部署に配属されて間もない頃、ある成分の分析が何度やってもうまくいかないという問題に直面した。上司に相談すると、機器の取り扱いマニュアルを見て、それぞれのシステムの役割を教えてくれながら結果と見比べ、原因を一緒に考えてくれた。結果だけを見て途方に暮れていた私は、うまくいかないのであれば原因を多角的に検討し、掘り下げて考えていかなければならないのだと強く感じた。そして設定の変更や機器のメンテナンスを行いながら試行錯誤し、最後には結果を出すことができた。
このことから、原因を考え行動に移すことと、「自分は成し遂げられる」という意識を持って取り組んでいくことの大切さを感じた。試してみて駄目であった、ということは経験として蓄積されるが、できないだろうと最初からあきらめて行動に移さないことは、新しいものを生み出すモノづくりに携わる者としてとってはならない態度である。仕事は個人プレーではなく、必ず相手がいるものだ。自分が妥協して成せなかったことがあるのなら、必ず迷惑を被る人がいることを意識しておかなければならない。
現在日本の経済は楽観的な見通しだけではない、大きな転換期にある。そのような時に自分がモノづくりの“作り手”側に回ることができたのは大きなチャンスであると感じている。これからの日本の経済のためにも、選ばれるに値する価値や品質を持ったモノを自分たちが作り上げ、この奈良の地から発信していくことを目標に仕事に取り組んでいきたい。