グローバル時代を生き抜く術
第8回産業論文コンクール 最優秀賞
住江織物(株)奈良事業所 池田 佳加さん
世界を見渡せば、欧州諸国や韓国等が中国やインドなどの新興国市場を重要な市場と位置付け、官民を挙げた活動を実施しており、また、中国も他の新興国市場への参入を進めている。その結果、日本企業の存在感は、海外市場での売上を伸ばす韓国企業、自国市場の拡大を背景に売上を伸ばす中国企業の急成長に押され、低下傾向にあるのが現状だ。もはや日本国内だけの市場では利益が見込めなくなってきた昨今、競合会社と称する相手は日本国内だけではなく、海を越えたところにもいるのだ。
このようなグローバル時代を日本企業が生き抜く術、それは「ひとづくり」だと私は思う。
あらゆる企業活動がグローバル化の影響を受けている今日、海外に派遣する社員や海外事業に携わっている社員だけを育成するのではなく、社内の一般社員も対象に、全社的にグローバル化を意識した「ひとづくり」にエネルギーを注ぐべきではなかろうか。特に、日本の未来を担う製造業に従事する人たちがグローバル化に対応した能力を付けることが必要だ。
入社して間もない私がこのように考えるようになったきっかけがある。それは新入社員研修を終え、今の部署に配属されて最初に与えられた、英語の雑誌のタイトルや記事の内容を日本語に要約する課題をしている時だった。世界の様々な研究機関や海外企業の国境を超えた最先端の製品や研究開発の現状や、ナノテクノロジーを駆使した新製品の斬新なアイデア、世界市場を獲得することを視野にいれた企業が集約する大規模な展示会情報、海外での製品製造や量産に向けた動きなどを知り、ある意味、良いショックを受けた。もちろん、日本企業の技術や研究開発も日々進歩しており、日本の技術開発や製造業は今でも世界をリードしているのは確かだと思う。しかし、これが10年、20年先も同じように続いているかというと、必ずしもそうとは言い切れないのではないかという不安も同時に感じたのを覚えている。そもそも日本企業は、製造や生産のみを海外へ移管する方法で海外進出を果たした。そのため、最初から英語を共通語として、異国の文化を理解した上で、その土地に合った「ものづくり」とマーケティングを中心として海外へ進出し、その国の市場そのものを開拓してきた欧米や韓国企業等とは大きく異なっている。その結果、これらの海外企業と比較すると、製造業に関わる人のグローバル化に対する意識や能力は少々低いように感じる。
それでは、具体的に私たちはどのようにグローバル化に対応した能力を養って仕事に励んでいけば良いのだろうか。
グローバル化というと、ただ語学のできる人材の育成という漠然としたイメージで語られているが、現実には「語学力」に加えそれ以外の能力が重要であると強く思う。それ以外の能力とは、「行動力」「コミュニケーション能力」「思考力」と定義したい。
「語学力」
言うまでもなく、英語が出来るに越したことはない。先ずは英語の文章を速読・読解出来るようになり、必要な情報を速く収集できるようすることだ。なぜなら、何か物事をインターネットで調べようと考えたときに、日本語よりも英語で検索した時の方が圧倒的に多くの情報を手に入れることが出来るからだ。英語を習得する際、心得ておきたいことは、ネイティブの英語を目指すのではなく、ノンネイティブの英語を習得すれば十分だということ。適切な文法や言葉を用いてきれいな英語が書け、100%正しい英語を話せるようになる必要はない。あくまで英語を意思疎通のツールとして使い、目的を達成できることが大切なのである。アジア諸国に行ってみるとわかるが、英語を公用語としている国でも、インド人はインド人の英語、シンガポール人はシンガポール人の英語を話している。日本人も堂々と自信を持って日本人の英語を話せばいいと私は思う。そうなる為にも、まずは、英語に触れる機会を自発的に増やしていくことだ。冒頭でも既に述べたように、英語の雑誌翻訳は、世界市場の把握と同時に、英語も学べるとても良い機会なので、今後もこのような形で英語の勉強は続けていきたいと個人的には思う。
「行動力」
常に新しいアイデアをものづくりに反映させる姿勢や、失敗を恐れず、与えられた仕事にポジティブに向き合い、国内外問わず、周囲の人と連携し最後までその仕事をやり抜く力を身に付けたい。この中でも、特に周囲との連携は仕事を進める上で重要になると考える。社会人では、学生時代に個人で進めていた研究や勉強と大きく異なり、自分の行動が周りの人たちや仕事に影響を及ぼしてしまうので、自分がこれから取る行動について吟味し、周囲と連携して行動出来るように努める必要がある。ましてや、グローバルな環境で働くとなると、国内の仕事の進め方と異なるため、より密に周囲と連携し、積極的に行動することが求められるだろう。
「コミュニケーション能力」
日本人同士でさえも、自分の伝えたいことが上手く相手に伝わらず、もどかしい気持ちになることが多々ある。このような場面でも、気持ちを汲み取る文化で育った日本人同士ならば、言いたいことをある程度は相手が理解してくれる場合もある。しかし、外国の人とのコミュニケーションで気持ちを汲み取ってもらうということは、不可能に近い。こういった場面を極力無くし、円滑にコミュニケーションを取っていけるようにするためにも今から、相手の立場を理解し、自分の考えを相手にわかりやすく、論理的に説明する力を付けなければならないと日々強く感じる。そのためには、知識を増やし、上司や同僚、国を超えて沢山の人々と触れ合い、彼らの良い部分を吸収し、自分のものにしていく必要があるだろう。
「思考力」
常に世の中の動きを敏感に感じ、世の中の流れを推察出来る思考力は欠かせない。そのためには、日ごろから仕事に対して、「So what?」と疑問を投げかけ、答えを自ら見出す力が必須だと思う。単純な作業であっても、その裏には必ず背景があり、大きな目的に沿って進められている。次なる展開を予測することで、今の仕事に対するモチベーションも上がり、仕事に付加価値を付けることが出来るはずだ。実際、私自身、目の前の作業をこなすだけで精一杯であり、周りの動きや仕事全体について常に考えられていない時もある。しかし、本来は、目の前の作業から得られた結果だけではなく、その作業によって全体的な目標に対してどのような影響を及ぼすのか、また、どのぐらい貢献できているのか等、全体像を見ることが出来るマクロな視点を持てるように心掛けて業務を進めていかなければならないと強く思う。そうすることで、製造業の場合は、周囲よりも一歩先を行く「ものづくり」が出来るだろう。さらに、海外進出したとしても、世の中の流れを予測する力を養っておけば、予想外の展開に見舞われることも少なくなり、もしも問題が起きた時でも、冷静に対応できるようになるだろう。
近年、日本企業の海外展開に対する意欲が高まっている。また、日本政府は新成長戦略や産業構造ビジョンにおいて、中小企業の海外展開を重要な政策課題と位置付けるなど、中小企業の海外進出支援も強化している。今後も海外市場の成長を取り込むために海外での事業展開を加速させ、日本企業のグローバル化は一段と拡大する見込みだ。したがって、これからさらに競争が激化していくと予想されるグローバル時代を生き抜くためにも、「語学力」、「行動力」、「コミュニケーション能力」、「思考力」をしっかり身に付けなければと思う。そして、先人たちが築いてきた技術を活かして、新たな発想で世界の市場を視野にいれた革新的な「ものづくり」を武器に、世界に日本の技術や製品を売り込んでいきたい。そして、5年後、10年後には世界を股にかけて、自社はもちろんのこと、さらには日本の製造業の未来に貢献したい。