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好奇心の活用

第8回産業論文コンクール 努力賞
㈱ヒラノテクシード 比良臣伸さん

 

 初めに、私は何事においても、イメージをすることが非常に重要なことであり、それこそが先を見通す力になると考えております。しかしながら、イメージと現実とがかけ離れてしまっては意味がなく、より正確なイメージを行わなければなりません。そのためには、できるだけ多くの知識や経験、情報を収集し、脳の中で複製されたもう一つの世界を構築する必要があります。その際、最も大事なことは何でしょうか?私が思うに、それは強い好奇心です。本論文では、日常の場面から工業的な場面まで、人間の持つ好奇心を積極的に活用していくことについて、例を交えながら記述していきます。

  好奇心は危機意識を持つことに繋がります。そもそも、「どんなものが危ないか?」ということを知らなければ、危ないと知った時には既に事故現場にいるかもしれません。

 例えば、ワサビを食べると鼻がツーンとしますが、そのメカニズムは鼻腔の粘膜にワサビから揮発する刺激成分が付着することに由来します。ワサビだけの話でしたら、一時的につらい経験をするだけとなってしまいますが、これが工業現場で、急に鼻にツーンと来る匂いを感じたとしたらどうでしょうか。それは鼻腔内に刺激物質があるということであり、自分の周囲には刺激物質を揮発させている何かがあるということです。既に周囲が危険な気体で満ちているのかもしれないと思えば、例えば火気の使用には慎重になるべきで、すぐにその場から離れるべきでしょう。さらに、人の鼻が匂いに慣れることで麻痺してしまうことがあることを知っていれば、嗅覚を過信せずに別の対策もとるべきでしょう。そもそも、危険な物質全てに匂いが付いているとは限りません。例えば、私達の周囲を満たし、その割合は実に80%を占める窒素でも、100%の雰囲気下に人間が置かれると即座に窒息し、死に至ります。それどころか、本来生きるのに不可欠である酸素でさえ、特定の環境下では生物にとって毒になりえるのです。ここまでのことを知っていれば、例えば酸素ボンベから気体が抜けている現場を見れば、火気厳禁以外の恐怖を感じるようになるはずです。このように、普段身の回りで当たり前のようにあるものでさえ、自身が危機に陥る可能性を秘めています。このことを知り、危機意識として活用するためには、どんなものに対しても疑問を持って、実際に調べようとする好奇心が必要です。

  また、好奇心は危機察知能力を養うことに繋がります。前述のような危機意識をどれだけ持っていても、事故が起こる時は一瞬です。ほんの少しの判断の遅れが生死を分けるような場面に備えるにはどうすべきでしょうか。それは、仕事に限らず日常生活の中からも、「この現象は何だろう?なぜこういうことが起こるのだろう?」という好奇心から、その現象の仕組みを調べるべきです。当たり前のように起こる現象を理解することによって、普段、正常である状態のイメージを理解し、体に刻み込むことができるのです。そのイメージは、毎日同じことをしていたとしても、無意識下で感じ取る違和感という形で、体が頭に反射的に危険信号を出してくれることでしょう。その違和感こそが突発的な事故に対する、危機察知能力に繋がるのです。

 例えば、「空はなぜ青いのか?雲はなぜ白いのか?」という現象の理由を突き詰めると、自然光の持つ様々な波長の大きさがそれぞれの色に関連することを知ることができます。ここで、日焼けの原因として嫌われている紫外線と、炊飯器等で使われている赤外線について考えましょう。どちらも人の目では見ることができませんが、同じ光であるはずなのに、紫と赤というだけでなぜここまで差があるのでしょうか。このことも、光の持つ波長の大きさがエネルギーの強さ、すなわち生体組織へのダメージの大きさに繋がるからです。こういった日頃の現象に対しても好奇心を持ってよく調べておき、正常である状態のイメージを正確に理解し、体に刻み込んでおけば、紫外線照射装置を扱う際、仮に何かの手違いで動作中に遮光シートが剥がれていたとしても、何かが変だぞ?という違和感として察知し、事故を未然に防ぐことのできる確率が高くなります。

  ここまで、危機意識、危機察知に重点をおいて好奇心の活用を記述しましたが、好奇心を持って理解し、イメージをすることは、新たな開拓へと繋がる可能性を秘めています。「失敗は成功の母」という言葉がありますが、何でも失敗すれば良いというものではありません。失敗に対して、強い好奇心と共に「なぜこのような結果になってしまったのだろう?」という疑問を持って原因を探り、失敗を深く理解することが重要です。その失敗を何度も繰り返さずに済むということだけではなく、失敗と思われるほど通常から外れた結果の中から、誰も思いもよらなかった発想を発見できるかもしれません。もちろん、徒労に終わることの方が圧倒的に多いでしょう。しかし、全く違う実験の試料を誤って混ぜたという、失敗とも呼べない失敗にすら好奇心を持って向き合った結果、田中耕一さんがノーベル化学賞の受賞にまで至ったという話は有名です。

 最後に、好奇心は人類の進化に欠かせなかったと言われていますが、現代になっても、変わらず人類の安全や発展のために欠かせないものであり続けています。私が大学院でしていた研究と、現在会社でしている業務とを比べると、責任の大きさを始めとして、全く異なるものになったことを強く実感しています。しかし、そのような中でも、あらゆる事柄に対して積極的に好奇心を活用していき、あらゆる場面でより正確なイメージを持って、困難な課題にこそ挑戦していくという姿勢で、これからも取り組んでいこうと思います

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