「ものづくり」の今後と将来
第6回産業論文コンクール 優秀賞
シバタ製針(株) 弓場 淳由さん
1.はじめに
『シバタ製針株式会社』は、ものづくり企業である。
日本経済を支えてきたのは『ものづくり』である。
そもそも『ものづくり』とは、普通は製造業やそこで使われる技術、人々のことを指す。単純作業での製造ではなく特に職人などの手による高度な製造の場合にこういった表現を用いられることが多い。似たような言葉に生産技術や製造技術という言葉もあるが、これらは明治期に西洋のIndustrial Engineeringを訳した言葉であり、西洋文明から入ってきたというイメージを強く感じさせる言葉である。優れたものは海外から、という雰囲気がある。
一方『ものづくり』は大和言葉である。あえて古い言葉を当てることで、日本における製造業の歴史性を強調する意図があり、この場合の「もの」とは鉄を意味するという説もある。日本の製造業は海外から入ってきた技術だけで成り立っているのではなく、日本の伝統技術の延長上に現代の製造業がある、という認識で使われるのが『ものづくり』という言葉である。
私は、この会社に入社する時に「ここの仕事は、一人前になるまでには十年かかるぞ」と言われ日々励んできました。ものづくりとは、ゴールがない日々改善・改良と常々考えるようになり、また最近ニュース等で言われている技能者の後継者問題・工場の海外移転などの問題についての現状と今後について考えたいと思う。
2.ものづくり
日本の製造業の強さは、二つある。
一つは、軽量化/小型化、高機能化など、商品を改良する技術力に優れていること。自動車、時計、携帯電話、家庭用ゲーム機などである。
もう一つの強みは、「高品質な製品を、速く大量に作れる」プロセスにある。例えばトヨタが編み出した『カンバン方式』を米国の学者が研究した結果、サプライチェーンマネジメント(SCM)として昇華させたのは有名な話である。
だが、そんな製造業の強みがここ数年揺らいでいる。その理由は、日本のお家芸だった改良技術、プロセス改善技術が海外へと輸出され、他国も技術力を付けてきたために労働コストが上乗せされた高い日本製品より、同じ品質で安価な海外製品が増えたのだ。また、これまで強みだった「迅速な大量生産システム」が、ここ10年以上にわたって縮小しつつある市場と比して過剰になっている。つまり、これまで強みだった”ものづくり力”が、ビジネス環境の変化で弱点となってしまったのだ。
ものづくり企業が生き残っていくための一番の方法が無くはないと思う。それは”オンリー・ワン”企業となることである。”オンリー・ワン”の製品づくりを可能にしているのは、その企業の持つ技術力・開発力であり、それを支えるものづくり人材の力である。
そこまでいかなくとも、事業内容を高付加価値構造へと転換を進めながら、競争力を高めている企業が売上を伸ばしており、製造業の原点である技術力を見据えて競争力を維持している企業が伸びている。
私自身も日々今より効率的な方法は無いものか、もっと高品質な品物は出来ないかと考えを巡らし、研修等に参加して新しい知識を取り入れ今の仕事に活用している。
国・地方等からの技能研修は、私自身も知識等を広めるのに非常に有意義なものと思っており、例えばフライス・旋盤などの技能講習や、切削学等の一層充実をしていくことが、人材の成長にもつながり技術の向上に一役買っていくと思う。
3.ものづくりの今後
これまで、中国(に代表されるアジア諸国)の「最新設備+コスト(人件費)安」に対して、 日本は「技術+技能」で対抗を続けてきた。これまでこの「技術+技能」力の向上に大きな役割を果たしてきたのは、いわゆる縦のケイレツ(一つの大企業が中小企業の唯一の顧客)であったが、現在ケイレツの崩壊は確実に進みつつある。
これからは中国の「最新設備+コスト(人件費)安」に対して、日本は「(技術+技能)+地域集積」により対抗していく、というスキームに変わることが必要である。
ニュースでもたびたび話題にあがるが、ものづくりを支える人材不足と人材育成の取組状況は、企業においては各種取組が見られるところだが、今後は経済のグローバル化、技術革新・製品サイクルの加速化、市場・顧客ニーズの多様化、高度化等事業環境の変化の中で一層の競争力強化に向けて企業は人材面からもさらなる挑戦を求められる。と同時に、人材の供給源としての若者のものづくりに対する意識が依然として低いことも課題である。
以上を踏まえ、早い段階からものづくりに対する興味、関心を喚起することにより若者のものづくりへの入職を確保するとともに、若年期から職業生涯を通じてものづくりに求められる必要な技能、経験を継続して蓄積し、またそれらを次代に適切に継承していくことができるよう、産・学・官挙げてものづくり人材の確保・育成に総合的に取り組むことが重要である。例えば、小・中・高学校において職場見学的なものをもっと増やして『ものづくり』に触れる機会を増やす努力等が重要であると考えられる。
そして、特にものづくりの将来を支える若い世代が、ものづくりに対して「夢」を抱き、「誇り」と「志」を持ってものづくりに取り組めるよう、ものづくりの素晴らしさ、魅力について理解を深め、ものづくりを尊ぶ国民的な機運を醸成していくことが必要である。さらに、事業環境の変化に対応しうる総合的なものづくり力を持つ指導的な人材の育成に向けた支援も必要である。
そのために地域の視点からものづくり人材の育成を支援し、具体的にはものづくり産業の集積地域等において、事業主団体などを活用し業界におけるものづくり人材の育成の計画を策定し、企業に対してものづくり人材の育成を奨励することなどが考えられる。
ものづくり人材の育成に関するこれまでの国の施策は、助成金の支給など全国レベルな規模での施策にとどまっているが、今後は地域レベルにおいてそれらを具体的に推進する事業、例えば高専等などの教育機関による実技講習等にも力を入れていくことが必要と考えられる。
4.まとめ
このように、これからの厳しい企業間競争の時代を生き抜くために、自分たちに求められる能力・資質とこれに対する施策の方向性においては、第一に現在能力低下(熟年者の定年退職等)が懸念されている製造部門の人材に求められる能力・資質について、第二に事業環境の変化の中で今後の事業発展に向けて求められる人材の能力・資質と人材育成である。技術力を高め世界と渡りあっていくには、人材育成がもっとも重要と思われ、そのために国・地方においてもなお一層の支援・対策が必要だと考えられる。
私自身があるのも、先達・先輩・社会の方々のおかげであり、そうした思いにも少しでも答えるため『ものづくり』を通じて社会貢献をしていけたらと思う。具体的には心・技・体という言葉がありますが、品格ある人格・海外に負けない技術力・前向きに努力する力(体力)という風に私自身も目指していき、そして、自分の後に続く後輩も育てていきたい。
また、社会見学等で当社にこられた方に『ものづくり』の喜び、例えば完成した時の達成感とかを伝えていき、ものづくりの理解を深めて頂けるよう努力したいと思う。