FRAGILE(フラジール)な顧客
第6回産業論文コンクール 努力賞
小山(株) 辻 伸幸さん
『FRAGILE(フラジール)』という言葉には、壊れやすいという意味があります。表題の通り、顧客は壊れやすく、しかも汚れやすいものなのです。つまり、顧客は全部「壊れ物注意」の存在です。例えば、ホテルに泊まると洗面台にコップが置かれています。コップにはプラスチック製とガラス製があり、プラスチック製は洗いやすく、割れにくく扱い易い商品です。一方ガラス製は割れたり、ひびが入ったりと洗い方も難しく、扱いが難しい商品です。私は、ガラス製のコップを置いてあるホテルは一流だと思います。ガラス製は壊れやすく割れると危険で片付ける手間や時間もかかり、人件費もかかってきます。つまり、メンテナンスの大変な物が置かれているのです。しかしガラス製の方が高級感やおもむきがあり、利用客の満足度は高まります。私が勤める小山株式会社は寝具・ユニフォーム類、ベッド関係にメンテナンスという付加価値をつけたリースを行なっています。寝具類の蒲団・シーツ・ユニフォーム類は汚れやすく、破れやすいものです。細かい所、見えにくい所まで気を遣わなければ、発見できない商品もあります。私達小山株式会社にとって、サービスとはメンテナンスです。白い蒲団・白いシーツ・白いユニフォームなどは汚れやすく、メンテナンスが大変な商品です。しかし、あえて大変な商品を取り扱う事でより良いサービスの追求ができ、従業員の意識も高まり顧客サービスの向上に繋がっています。次に、顧客とは何かを考えた時に市場における顧客の位置付けを決める必要があります。まず、市場とは商品やサービスの買い手と潜在的な買い手の集合と定義できます。そして、市場を「浸透市場」・「潜在市場」と2種類に分けて考えます。浸透市場とは、過去に企業から製品を購入した消費者の集合を指します。潜在市場とは、商品やサービスを買いたいと明確に表明し、何らかの方法で支払能力を備えている消費者の集合を指します。浸透市場は既存客であり、潜在市場は潜在顧客・見込客と言い換えられます。私達企業の周りにある様々な市場と顧客に関わるには、顧客満足に注意を払う事が近道ではないかと考えます。経営学者F・コトラ―は、顧客満足より市場シェアを重視する企業が多い中、それは誤りだとした上で、「市場シェアは過去に関する指標であり、顧客満足は将来に関する指標だ」と述べています。今これだけの数の顧客に売れたからといって、1年後に同じ数の顧客が製品を購入するとは言えません。その場合、未来の指標となるのが顧客満足です。市場シェアは企業活動の成果を示す指標の一つですが、それ自身を追い求めたのでは将来的に市場シェアを維持・拡大する事は難しいという事です。私が、日々業務の中で、顧客満足に注意を払う上での心掛けを以下に記します。(1)クレームがきたら、一生のお客さんになるチャンスだと思う。→サービスが多くなるほどクレームも増えます。クレームの数と顧客満足の数は常に一致する。(2)クレームを最後まで聞く。そして素直に謝る。→私達がサービスの始発駅であり、サービスの終着駅。クレームの始発駅は私達であり、クレームの終着駅も私達。(3)怒っているのに、クレームを言わないお客さん(静かなクレームを持ったお客さん)に気付く。→サービスにおいて、「普通」はない。お客さんを喜ばせているか、怒らせているかのどちらか。つまり、サービスで「可もなく不可もなく」は不合格である。(4)クレームを集める。→クレームをもらったら、保管し自分にストックする事がサービスを向上させるノウハウである。ノウハウは決して成功例の集大成ではなく、トラブルやミスの集大成である。(5)「ちょっと嬉しい」を作りだす。→「お得」というサービスから「便利」というサービスへ変わり、「嬉しい」というサービスへ変わる。「ちょっと嬉しい」を提供出来なかったら、サービスをしなかったも同然。(6)「もうそこまでやらなくていい」と言われるまでやる。→サービスとは選択肢がある事です。お客さんが「もういいです」と言うまで出し続ける。なぜならお客さんはなかなか「もういいです」とは言わない。(7)病院からサービスを学ぶ。→病院(ホスピタル)の語源である「ホスピタリティー」=「おもてなし」という理念からサービスを学ぶ。顧客に対してのみではなく、一緒に働く仲間や施設、取り扱う商品、地域社会に対しても持つことが重要である。(8)一度でも顧客を喜ばせる体験をする。→顧客と従業員は相乗効果で良くも悪くもなる。お客さんのレベルを上げるには、従業員のレベルを上げなければならない。従業員にとって、お客さんに喜んでもらう以上の満足はない。(9)従業員間の情報誌・業界紙をお客さんに知ってもらう。→情報もまた、サービスの一つ。従業員同士の情報をお客さんと共有するだけで、お客さんは満足出来る。(当社では社内刊行誌『陽だまり』・日本病院寝具協会『リネット』などを提供)以上が私の心掛けです。最後に、P・F・ドラッカーは30年以上も前に次のように述べています。「企業の目的が顧客を創造することであるために、企業には基本的な機能が2つある。それは、マーケティングとイノベーションだけである。その他はすべてコストである。」と。顧客はFRGILEな存在であるにも関わらず、依然として私達企業は製品中心の考え方を持っています。製品別の売上管理を行っていながら、顧客シェアや顧客生涯価値管理を行っていないのです。ドラッカーによれば、製品は単なるコストでしかないのです。私達企業はコストを生み出す為に存在しているのではありません。消費は世相を映します市場の急速な変化に直面しながら、自社の顧客を創造し、FRAGILEな顧客を支え、維持することを第一に考える必要があると私は考えます。
「売り手と買い手の距離」私達はこの言葉を常にツイート(つぶやき)していいのではないでしょうか。
参考文献
・『あなたのお客さんになりたい』 中谷彰宏
・『コトラ―のマーケティング・コンセプター』 F・コトラー
・『チェンジ・リーダーの条件』 P・F・ドラッカー