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今のデザイナーの形

第5回産業論文コンクール 優良賞
(株)アイプリコム 石田 良太さん

パソコンが使える。この言葉は最近ではごく当たり前のものとなっている。少し前までは一部の企業や、特定の人が使う高価で特別なものという認識があった。しかし、現在、一家に一台以上はパソコンを所有し、小学生ですらインターネットを利用する時代である。そんな両方の時代を生きてきたのが私達の世代ではないだろうか。
私は今、印刷業と関わるグラフィックデザイナーという仕事に就いている。常にパソコンと向き合い、共に生きてきたと言っても過言ではない。しかし、上記の理由から「使えること」自体が特別なことでは無くなってきいてる。誰しもがパソコンを使えばデザインすることが出来、プリンターを使えば印刷所と遜色ないものが出力できる。そんな時代を生き残るにはデザイナーとして、印刷業としてどんな違いを見せていけばいいのだろう。

まずデザイナーとはなんだろう。私の恩師の言葉に「デザイナーは芸術家になってはいけない」と言われたことがある。芸術家とは自分の感性を常に磨きそれを形にする職業である。言わば自分が創りたいものを創り、認めてもらえる人にのみ見てもらえればいいと考える。対してデザイナーとは人が求めるものを理解し、形にする職業である。相手の要求を上手く聞き出し、それに最も効果的な方法を提案する。自分の自己満足で終わらすのではなく、如何に相手の希望を踏まえた上でより良いものを創れるかが全てである。ここがプロとアマの違いだとも教わった。言われてすぐは私も若かったため完全に理解するには至らなかった。しかし、クライアントに接する機会が増えるにしたがいこの言葉の重みを感じるようになった。ある程度相手の求めることを形に出来るようになってからが本当の意味でのデザイナーの始まりである。

さて話は戻るがデザイナーとして時代に生き残る方法を考えてみたいと思う。今デザイナーの仕事は昔と比べて、出来ることが増えた分、比重も上がっている。企画段階から参加し、構成を考え、デザインし、校正する。会社にもよると思うが現在ほとんどのデザイナーが全ての能力を求められる。ただ、最初から企画に参加できる分、クライアントの意志を理解しやすく、デザインにも反映させやすいという利点がある。そしてそれこそが今一番の強みである。
ここにこれからの生き残るヒントがあるのではないだろうか。私はそれを付加価値と考える。デザインが良いことはもちろんだが、そこに何か他の価値を持せることがこれからの印刷業の強みになっていくのではないだろうか。
例えば、今では当たり前になっている割引チケットの付属、来店時のプレゼント告知、福引き券等々、初めて考えた人がいるはずである。そんな来店意欲や興味を持ってもらってこそ広告は成り立つ。もっと派手に、もっとカラフルに、もっとシンプルに格好良く、全てはそこに集約される。もちろん予算の都合やクライアントの考えもあるだろうが、ただ言われた仕事をこなすのではなく常に提案する姿勢を見せて行くことが大事ではないだろうか。
もちろんそこにはコミュニケーション能力や、時代の流れを読む感性、提案力など様々なものが求められる。デザイナーはただデザインが出来ればいいのではなく必要に応じ営業マンに近い能力が必要になってくる。いや、必要になっているのである。だからこそ今の新しい形を理解し、常に向上心を持ちたいものである。

そしてデザイナーと切っても切れない関係が印刷である。如何にすばらしいデザインをし、クライアントが満足していても形ある物にならなければなんの意味もない。
今印刷業に最も求められるものはスピード、正確さ、再現力ではないだろうか。特に求められるのがスピードである。短期納品、これは全ての職業に必要とされている能力である。しかしもちろん正確さがあってこそである。ただただ早く出来ることだけに特化しても何の価値もない。ここでも付加価値が重要となってくる。納期を守ることは当たり前であり、そこにどのような付加価値を付けることができるかが各会社の個性となっていくのではないだろうか。そして個性が強い会社だけが生き残っていくことが出来るのだと思う。
しかし時代のニーズはWedへと流れているのも事実である。簡単に情報を調べることが出来、新しい情報もすぐに載せることができる。しかし、Webの弱点としては興味を持ってもらうことが抜けている。自分から興味を示さないと目に触れることさえないのだ。紙媒体は手に持ち興味を持てるかどうかを吟味する時間がある。それこそ紙媒体の強みではないだろうか。
私自身Webを見るのが好きである。しかし、一番信頼した情報を求める場合はやはり紙が一番である。情報が乱立し、不確定な要素が多いWebよりも紙が信頼できるのである。ページを捲る楽しみ、紙の臭い、形ある手触り、そんな楽しみは紙だからこそである。

さて、最後に今後デザイナーや印刷業が生き残るには大変な努力が必要である。しかし、私が大好きな紙をこれからも世に送り出すべく、日々精進していきたいと思う。

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