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モノづくりに求められる力

第5回産業論文コンクール 努力賞
住江織物(株)奈良事業所 深城 裕子さん

禅の言葉「吾唯足ることを知る」は私に影響を与えた言葉である。生まれた時から与えられていた豊かな暮らし、豊富な資源も、先人達が苦労して困難を乗り越え創り上げた土台の上に成り立っているものだということに気づくことが出来た。そう考えたときに私は両親をはじめ、これまでの満ち足りた幸せな生活の基盤を創ってくれた方々に感謝すると同時に、人々の幸せな生活に貢献するような仕事、特に社会に広く浸透するようなモノづくりを生涯の仕事にしたいと思い、社会人としての第一歩を踏み出した。

新入社員研修後、開発部に配属となった。配属されてすぐに感じたことは、モノづくりにおける研究開発という仕事は、繊細さと大胆さが求められる仕事であるということである。小スケールでのテーブル試作、性能評価試験から本番量産までを完全に把握し、技術支援を行う。「やってやる!」から「どうやって?」へ、熱いスピリットトークから、緻密で具体的な作戦会議、それを実現させる行動力が必要である。新しいモノを創るということは、目の前の巨大な壁を少しずつ削っていくようなものだと思う。まずは専門知識の情報収集や試験方法の確立、試験データを蓄積し、分析・考察を繰り返す中で壁に小さな穴を開ける。次に、小スケールでの試作や試験方法の改良を繰り返し、その小さな穴の周りをまた少しずつ削っていき、最終的に製品として完成させることで巨大な壁を打ち破らなければならない。新しいモノを創ることは決して容易なことではないということを、私は今まさに痛感している。テーブル試作品では素晴らしい性能結果が得られても、実際のスケールで試作してみると、機械が思い通りに作動しなかったり、製品としてのばらつきが生じたりといった問題が生じてしまう。今後、課題をひとつずつ解決していき、目の前の巨大な壁を打破し、壁の向こう=市場へと自信を持ってリリースできるモノを創りたいと思う。

開発という仕事は製品の根源であるが故に、確実性とスピードが求められる。その過程は失敗や困難の連続であり、常にスムーズに進むわけではない。しかし、課題解決のための発想の展開は常にスムーズに行わなければならない。今の私は一つ一つを確実に実行するだけで精一杯ではあるが、今後、確実性はそのままにスピードアップを図らなければならない。そのために上司や先輩方の段取り力・優先順位のつけ方を学び、取り入れていくようにしている。加えて、ユニークかつ実用性と実際性を兼ね備えたアイディアが求められる中、考え抜くことももちろん大切だが、視点を変える、次元を変えるなどの変化を求めなければ、面白いアイディアは生まれない。先見の明を養う好奇心と向上心も必要不可欠であると言えるが、実際には一人でじっと考える時間よりも、上司や先輩との他愛のない談笑や異なる作業をしている最中に良いアイディアが閃くことの方が多いように感じている。さらに、開発を進めるには、社会のニーズへの適合はもちろんのこと、製造コスト・品質管理、環境への配慮も視野に入れることも必須である。そのため、常に数字意識を持つこと、社会的ニーズや動向に敏感であることも大切であり、自分の関係する分野以外の幅広い知識・情報にも興味を持って学んでいこうと思う。

最後に、モノづくりにおいて最も重要なことはコミュニケーション力であると考える。モノづくりは実に多くの方々と関わり、常にインタラクションしながら仕事を進めていく必要がある。自分の意見を伝える力、単に伝えるだけでなく相手に伝わるように説明する力とその影響力が求められる。一方で、相手の言わんとすることを注意深く的確に理解する力、どのような意見でも貴重な意見として取り入れる柔軟性も兼ね備えていなくてはならない。実験室に篭って作業するだけではなく、多くの方々と接し、情報や意見交換を行う中で新しい発見をしていきたいと思う。先日、先輩の開発した製品の工場での本番生産立会いに同行させていただく機会があった。実際にモノづくりの現場に携わるスペシャリストの方に説明をしていただき、製造工程を文献で学ぶよりも確実に吸収できた。モノづくりの原点である工場の製造現場を改めて間近で体感した私は、何とも言えぬ悦びで心が高揚したのを今でもハッキリと覚えている。自分が開発に携わった製品であれば、果たしてどのような気持ちになるのか。一日も早くその日を迎えるためにも、今からが正念場である。入社して約半年が経つが、現在は上司や先輩とのディスカッションやアドバイスからヒントを得ながら、少しずつではあるがモノづくりに携わる者としての力を培っていると思う。今後も当たり前に仕事のできる環境に慣れきってしまい、視野を狭めてしまわないようにしなければならない。社会の一員としてのアンテナを広げ、常に仕事への情熱と周囲への感謝の気持ちを忘れないようにしたい。

近い将来、私達若者は先頭に立って日本の産業を引っ張ることになる。過去の先人達の素晴らしい仕事の上に、私達の現在があるように、後世の人々の生活を豊かにする・未来を創る一端を担う仕事に誇りを持って、今後もモノづくりに携わっていく所存である。

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