奈良県の観光事業について
第4回産業論文コンクール 優良賞
共同精版印刷(株) 矢澤 智子さん
私は奈良に移り住んで6年目になります。働くようになってから今まで感じなかったこと・知らなかったことなど、気づくようになりました。
いろいろと気になる点はありますが、その中でも「観光」について今回は述べたいと思います。
奈良県は大阪・京都などの大都市が近いこともあり、なかなか産業が発展しにくい所で企業も少ないようです。また、農業も特に盛んということもなく、観光収入にたよっています。
世界遺産を3件も有し、日本の歴史に名を残す寺社仏閣が多く残っている奈良県。そのような観光都市であるにもかかわらず、あまり観光事業に力を入れているように感じられません。
せっかく良いものをたくさん持っているにも関わらず、活かし切れていないのではないでしょうか。近年、旅行者のニーズが多様化しており、そのニーズに対応しきれていないのではないでしょうか。
最初に奈良観光の現状を述べます。(以下のデータは奈良県が提案する「21世紀の観光戦略」を参考にしています。)
入り込み客数は1988年のなら・シルクロード博が開催された年の4100万人をピークに、年々減少しておりここ数年は3500~3600万人で推移しています。
宿泊客数は300万人前後で推移しており、日帰り率が高いことが伺えます。
さらに、宿泊施設が少なく全国でも下位クラスという現状が、これに拍車をかけています。これでは観光シーズンにでもなれば対応できません。
また、宿泊者が少ないということで、観光客1人が奈良県で使う金額もかなり低いようです。日帰りと宿泊では県内で使う金額にかなりの差がでます。
以上のように日帰り旅行が多いということで、やはり宿泊を伴う旅行者を増やさなければ収入は増えません。大都市に近いという交通の便の良さが、逆に仇となっています。
このような現状で、とても観光を謳った県とは思えません。
「奈良は日帰りでいいよね」という考えを「せっかくだから泊まりたい」という思いへ、どうやって変えるか。どうしたら、魅力のある町になるのか。真剣に考えなければなりません。
気になる点が3つあります。
1つめは、町全体に統一感がないということです。三条通りや駅前など景観に統一感がなく、駅を降りたっても大和の地にきたとは思えません。
奈良町では力を入れているようですが、奈良の玄関口である駅周辺の整備が求められます。
2つ目は、PRがまだまだという気がします。奈良には世界遺産も多く全国的に有名な寺社仏閣・観光地が点在しています。この知名度に頼りきってはいないでしょうか。
従来からの観光プラス、新たな視点での観光プランやPRが必要です。
3つ目は、観光事業に対する官民の温度差が大きいことです。2010年には平城遷都1300年祭がありますが、この行事においてもチグハグで足並みがそろっていないようです。また、県民の奈良に対する意識も低いです。
観光ではその町イメージが大切です。奈良に来ないとできない、奈良に行かないと味わえない、奈良にしかできないことを提供していく、PRしていくことが重要です。
最近は画一的な旅行プランではなく、個人個人に合わせたコアなプランに人気があるようです。例えば、奈良には「○○の発祥地」というのがたくさんあります。例えば、能の発祥地・日本酒の発祥地などです。このように、寺社仏閣だけではない側面にも目を向けアピールしていく、もっともっとコアなファンを作っていきリピーターを増やす。
これが、未来の観光産業において重要になってくるのではないかと思います。
奈良は保守的な土地柄で、なかなか新しいことには手をつけない、従来通りでよいという考えが強い所です。
しかし、従来のやり方だけではなく、新たな魅力を発掘していくことが必要です。
小さなターゲットに焦点を当てて今までにない視点から奈良をアピールする。
すぐに大量の集客は見込めませんが、徐々に口コミ等で広まるような良い観光地・プランをこれからは提供してもらいたいです。
奈良は魅力のある町です。ですから、もっともっと多くの人に訪れてもらいたいです。