私の考えるものづくり
第3回産業論文コンクール 最優秀賞
(株)ヒラノテクシード 中村 圭佑さん
「ものづくりにおいて、重要なことは何か?」と、問われたら、「安全性!」と、私は迷わず答えるだろう。
ものづくりにおいて、安全性を意識するようになったきっかけは大学の卒業研究にある。当時、私は卒業研究のテーマの一つである「金属疲労」と言う破壊の現象について学んでいた。近年、飛行機や遊園地にあるジェットコースター、公園に設置されているブランコなどの事故の原因としてニュースなどでよく取り上げられるようになり、耳にする機会は増えたと感じられる。しかし、私は卒業研究に取り組むまで聞いたことがなく、初めてその言葉を聞いたときは、「金属も人間みたいに疲れるのか。それはおもしろいな。」程度のお気楽な考えしか持っていなかった。だが、「金属疲労」について学んでいくにつれ考えを改める必要があることに気付いた。
「金属疲労」とは、ある物質に繰返し力を加えていくと、たとえその一回一回の力が弱かったとしても何万回と繰返すことにより、物質にき裂が生じ破壊されることがあるといった現象だ。例えば、針金を素手で折るときなどは、この現象を利用している。針金を素手で折るとき、一度曲げただけでは針金は軟らかく折れないが、折り曲げを何回も繰返すとあるとき突然折れる。このような現象が「金属疲労」と呼ばれるものだが、針金を折るように繰返し力を加える動作は日常のいたる所で無意識の内に行われている。例えば、椅子に座るという動作。これも立派な疲労現象だ。毎日同じ椅子に座るといった動作を数年も繰返すと、あるとき座った瞬間に突然壊れるといったことが起こり怪我をする可能性がある。毎日通勤途中に通る橋も、大勢の人間が同じ橋を通るとそれだけ橋に繰返し力が加わることになる。そして、あるとき突然橋が壊れるといった大事故に繋がる可能性がある。このように、金属疲労は日常のいたる所で起こっており、事故を引き起こす可能性を秘めている。当然、何か物を設計する際には、そのことを考慮し強度計算をした上で設計を行っているが、それでも事故が発生している。
近年、金属疲労が原因で起こった事故の中で有名なものは、某遊園地のジェットコースターの横転事故だろう。事故の原因は、コースター車軸の金属疲労による折損で2両目が脱線。この事故で乗客3人が落下。うち、19歳の女性1名が頭を手すりに強打し即死。その他、男性4人、女性17人の合計21人が病院に搬送された。このような事故が起こってしまうと、今後ジェットコースターに乗るのが怖いと感じる人も少なくないだろう。事故はジェットコースター以外でも、飛行機や公園にあるブランコなどで実際に起きているわけだが、事故や故障するような使用者を不安にさせるものは、どのような高度な技術によって造られたものだとしても、それはものづくりとは言えないのではないだろうか。私は、「金属疲労」を学ぶ中でそのような疑問を感じるようになった。
ものづくりとは一般的にどのような意味を指すのだろうか?インターネットで調べてみると、以下のような説明が出てきた。
ものづくりとは日本の製造業と、その精神性や歴史を表す言葉である。ものづくりとは、普通は製造業やそこで使われる技術、人々のことのことを指す。単純作業での製造ではなく特に職人などの手による高度な製造の場合にこういった表現を用いられることが多い。日本の製造業は海外から入ってきた技術だけで成り立っているのではなく、日本の伝統技術の延長上に現代の製造業がある、という認識で使われるのが「ものづくり」という言葉である。1)
この説明によると、ものづくりとは主に製造過程、技術、それに携わる人々を指すらしい。そうなると、私の疑問はものづくりとは別問題と言うことになる。しかし、ものづくりによって造られた製品の大半は人によって使われる。使う人がいるからには、その製品が危険なもの、使用者を不安にさせるものであってはならない。そう考えると、私の疑問もものづくりに関係すると考えていいのではないだろうか。少なくとも、私はものづくりに関係すると考えている。
私が考えるものづくりとは、もちろん製造過程、技術、それに携わる人々も含まれている。しかし、一番重要なのは、ものづくりによって造られた製品の安全性ではないかと考えている。なので、製品を設計する際に安全性を確かめるといったことはもちろんものづくりに含まれる。そして、造られた製品を定期的に安全確認し、事故や故障を未然に防ぐことも、ものづくりに含まれると私は考えている。使用者の安全が守られ、初めてものづくりと言えるのではないだろうか。もちろん、造るものによっては、当てはまらないものもあるだろう。私の考えは間違っていると思う人もいるだろう。しかし、これが私の考えるものづくりだ。
<参考ウェブサイト>
1) フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 ものづくり
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%A5%E3%81%8F%E3%82%8A