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「ものづくり」との出会い

第3回産業論文コンクール 優秀賞
小山(株) 久保 光弘さん

1.はじめに
毎朝いくつもの新聞に目を通し、重要な記事をチェックする。これが私の朝一番に行う仕事だ。これだけを聞くと情報の収集という楽しそうなイメージを持つかもしれない。たしかに、入社したての頃は見る記事すべてが新鮮に感じられ、毎日が発見や「気づき」の連続であり、今もそれはほとんど変わる事はない。むしろ、変化があったのだとしたら私の視点のほうだろう。今までは大雑把に流れを捉えることしかできないでいたのが、細部にまでフォーカスすることより認識する情報の密度が増していく。そのため、社会の大枠が変化するスピードは遅く感じられつつも、徐々にではあるが着実にイノベーションが起こっている様が見えるようになった。紙面の向こう側で起こっている事がわずかではあるが見えつつある。今はそれが楽しくてしょうがない。
今回、「ものづくり」という言葉と向き合ったことで、今まで意識することのなかった風景が見えてきた。大量の情報が押し寄せ、その渦に私自身が飲み込まれてしまった。「ものづくり」そのものへの理解が乏しい自分の未熟さに悔しさを覚えつつ、消化不良の症状を必死に抑えながら、なんとかいま筆を持っている。

2.背景
私の所属する企業はリース業を営んでおり、主に寝具や介護用品、そしてリネン等を貸し出すことによって対価を得ている。よって、社内で生産という言葉を用いてもそれは洗濯プロセスやメンテナンスを意味するのであり、原料から製品を作り上げる第二次産業とは肌合いが異なる。顧客との契約においても、一般消費者を対象としてはおらず、いわゆるBtoBの関係で営業活動を行っている。
日本の医療・産業クリーニングの売上総額はほとんど伸びていないという統計がある。その一方で契約単価は徐々に下がる傾向にある。このような状況において、既存の企業が利益を確保し、成長を続けるためには、オペレーションの改善を行い、生産性をあげ、固定費・変動費を圧縮し、品質を高めなければならない。つまり、私の所属する企業の業界にも、ものづくり経営のセンスが求められ、それを備える企業しか生き残れない市場環境が形勢されつつあるといえる。

3.ものづくり理論の導入
「開かれたものづくり」とは、顧客を喜ばせる新しい設計情報の創造、媒体への転写、顧客に向かう設計情報のよい流れの開発であると藤本は述べている(藤本・286頁)。なるほど、そのような視点に立てば、物財(製造業)だろうとサービスだろうと、等しく「ものづくり」なのだと認識することが可能となる。こういった思想および形成されつつある理論やマネージメント手法をもって、私がいま所属する企業に活かし貢献していかなければならないのだと痛感する。
ものづくり経営のキーワードから見た場合、私の所属する企業においても「多能工化」が図られている部門が存在する。それは寝具を主に扱う営業マンであり、商談から納品・回収、発注の手配と一人で何役もの業務をこなしている。それにより契約先の現場とのコミュニケーションが改善し、自然と配慮の行き届いたサービスが展開されている。顧客としても、一人の人間と話をしておけばスムーズに手続きが行われるため、分業化による情報の伝達リスクを回避できるメリットがある。しかし、一人である程度完結して業務を遂行できるということは、成果のほとんどが一個人に負うところが多いことを意味する。団体の組織力を重視する視点から見ると不安がないわけではない。個人の能力から団体の組織力へ、言い換えるならば、個人の能力を発揮させる団体組織の取り組みが今後の課題のように思う。そのためには、営業改善手法の事例発表や情報交換の集まりの場を設け、それが身につく運営のサポートをしていかなければならない。それが企画課に籍を置く私の仕事なのではないかと自覚するようになった。
「JIT(ジャスト・イン・タイム)」、平たく言えば、必要なときに必要なだけの資材が投入されることを指す用語だが、これはサービスにおいても重要な意味を持つ。顧客の求める納期は年々早いサイクルになっており、リネン等は回収から納品までの期間が四日しかない場合もある。こういった需要に対応するためには、工場設備の再構築や夜間稼動を見据えた人事の見直し、それによるコスト増をクリアするための収益構造の開発が必要となる。しかし、私の所属する企業は単一の工場だけでは説明できないシステムで動作している。そのため、一工場単独の改善だけでは劇的な効果は生まれがたい。産業クリーニングは物流も含めたネットワークの横展開によりその全体が変わらないかぎり、大きな成果は生じないからである。この問題は我が社が今後どういったスタンスで経済活動を行っていくのか、根本的な部分の議論から着手していかなければならない。そして、議論により定まった方針と個別業務の間との対話によって全社的な取組みへと発展するようマネージメントされる必要がある。そのためには、マーケティング、ビジネス戦略が不可欠であり、その立案をサポートするのが今の私の職務なのだろう。

私個人の能力をはるかに超えたことを言っているのは承知している。しかし、そこに「やりがい」を見出し、取組み続けることができる今の職場に私は感謝している。

参考文献

藤本隆宏=東京大学21世紀COEものづくり経営研究センター『ものづくり経営学 製造業を超える生産思想』(光文社、2007年)
矢野経済研究所『リネンサプライ白書2006』(2006年)

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