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笑顔づくり

第3回産業論文コンクール 努力賞
小山(株) 石川 めぐみさん

仕事をするのは結局は自分のため、そう私は思っていたし、今も少し思っている。ボランティアをするにしてもそう、人のためと思ってしたことが、結局は自分の成長につながったり、何か得るものがあるものである。生活を成り立たせるためには仕事は必須であるが、仕事をすることで得られる何かがあると私は思う。その「何か」があるから充実していると思えるのだろう。

日本は「高齢社会」になった。医療の進歩、公衆衛生、生活の便利化など、日本は日々進化している。パソコンで物が買えたり、温かい食事を家まで配達するサービスがあったり、家から出なくても生活ができてしまう。便利な反面、高齢者の孤独死などの人と人との繋がりが減ってしまったことによる障害が問題になっている。悲しいけれどこれが現実である。

私は以前、高齢者と直接関わる仕事をしていた。24時間、朝ご飯を食べて、10時のお茶、昼ご飯を食べて、3 時のおやつ、夕飯を食べて消灯。寝ている間は巡回したり、オムツ交換、朝の支度をしたりとまるで息をつく暇もなかった。夜勤明けは家に帰って一日死んだように寝た。それでも続けてこれたのは、「ありがとう」と言ってくれたこと、そして「笑顔」を見ることができたからだと思う。笑顔を見ると元気になれる。がんばろうと思える。家で一人ぼっちでは味わうことのできない最高の栄養素である。その栄養素を作り出すには、自分からも栄養素を与えなくてはならない。仕事や時間に追われながら栄養素を作り出すのは至難の技である。

自分に余裕があると人は優しくなれる、そう私は思う。余裕がなくて自分のことで精一杯であったら周りをみることもできないし、思いやることもできない。ただ目の前にある仕事を片付けていくだけではつまらないし、進化した今の日本であったら人に頼らずできてしまうだろう。便利かもしれないが、何だか味気ない感じがする。私が考える「仕事のできる人」は忙しいなかにも「余裕」を作るのがうまい。同じ時間の中で余裕が作れる人、たとえほんの少しでも余裕があれば、周りを見渡すことができる。自分の仕事に間違いはないか、誰か困っている人はいないか。困っている人を助けることができたらそこにもまた余裕がうまれる。余裕から笑顔も生まれる。

去年の夏の暑い日、私の大好きだった祖父が亡くなった。81歳、私にとっては早すぎる死であった。その年の春、会った時に祖父は「結婚式には絶対に行く」、「ひ孫を見るまで死ねない」と話していた。祖父の住む福岡から私の住む横浜まで新幹線で5時間、私の一歳の誕生日、引越しをした時、長い時間をかけて来てくれたのは祖父だけであった。私は祖父が大好きである。それは今も変わらないし、亡くなってしまった今も年に一度は福岡へ行こうと思っている。一人になってしまった祖母も気になってしまう。祖父はとても社交的な人であったから、葬式にもたくさんの人が近くから遠くからたくさん来てくれた。新聞を見て来たという人もいた。人柄だなと思った。祖父も祖母をはじめ、周りにいるたくさんの人に笑顔を与え、そして与えられたのだろう。定年後もスーパーの店長をしたり、友人と旅行に行ったりと急がしそうにしていたが、笑顔の祖父がそこにはいた。毎日充実していただろう。そんな祖父がとても羨ましい。

便利な社会になったこと、人と人とのつながりとの両方が合うとさらに大きな効果を発揮する。介護の話ばかりになってしまうが、介護ベッドの設置によって利用者のADLが向上したり、介護者の負担の軽減、そこに少しの余裕が生まれ、笑顔が生まれるかもしれない。車椅子の使用によっていつもより遠出ができるようになり、友人に会いに行ってみようとQOLの向上につながり、そこにも笑顔が生まれるかもしれない。

私の仕事は介護用品の卸レンタルである。直接利用者と接する機会が少なくてもどかしさを感じることもあるが、このベッド、この車椅子で利用者の生活が良い方向に変わったらと思うといい仕事だなと思う。表舞台から今、裏方にまわって、とまどうこともあるが、「こういう便利なものがあったのか」という発見も多く、毎日がとても充実している。まだあまり知られていないものもあり、これから作られるものも多くあると思う。そういった情報を提供するのが私の仕事だと思っている。

町で自分たちの扱っている車椅子に乗っている人を見るとなんだか嬉しくなってしまう。それがたとえ一本の杖だとしても、利用者はそれがないと外出ができないかもしれない。一本の杖が人と人とのつながりを作っているかもしれない。そう考えると自分の仕事の大きさを感じる。今までの経験を生かし、どのようにしたら利用者や利用者を取りまく人達の笑顔をつくることができるか、日々勉強し、努力していかなくてはいけない。私の仕事は笑顔を作るというとても大きな仕事である。

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