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今後の印刷産業の展望について

第3回産業論文コンクール 努力賞
(株)アイプリコム 神田 隆子さん

奈良県工業会第3回産業論文コンクールに応募するにあたり、テーマを策定したところ、自分の現職に関わる印刷産業についてテーマを設定した。印刷産業の調査を進めていく中で、私自身が業界内の変化を正しく認識していなかったことに気付かされた。その調査の中で見えて来た今後の印刷産業の展望について自分なりに考察していきたい。
かつて印刷産業は不況の影響を受けにくく、非常に安定した業種であった。高度成長期、バブル期にはGDPの伸びを上回る成長をなしてきたのである。しかし、現在の印刷業は好景気とはとてもいえない状況にある。

その原因には、長引いた平成の不況の影響もあるが、それだけではない。印刷業界全体の構造的な部分が大きな要因を占めている。その要因にはいくつかあるが、とりわけ主要なものを3つあげたいと思う。
一つ目は、大量生産・大量消費から多品種少量生産への移行である。これまでの印刷業では、同一の商品を大量生産することが主流であったが、企業のコストダウン志向や環境問題への対応、少子高齢社会に伴う需要自体の減少から衰退していった。それに変わり、多種多様な商品を必要な分だけ生産するようになったのである。
二つ目は、コンピューターや出力機が社会的に浸透したためである。このことにより、各企業が、高品質を必要としない印刷物は製作工程を社内で内製化するようになった。結果、印刷会社でなければできない仕事の範囲が狭くなり、既存の需要が減少してきたのである。
三つ目は、紙をビジネスモデルとした印刷物自体の必要性が希薄になってきていることである。近年、社会進化と技術革新によりインターネットや携帯電話等の普及、電子本や電子ペーパーといった紙にとって代わる新たな電子媒体の登場により、本来持っていた印刷物の役割が次第と失われてきているのである。

このように構造的な歪みを抱える印刷産業にとって企業が生き残りをはかるためには従来の仕事の領域を広げて、新たなビジネス形態を確立していくことであると考える。その新たなビジネス形態について、いくつか例を挙げてみたい。
まず、自社の事業の強み・弱みをはっきりとさせ、得意分野に的を絞り込み、他社が追随できない特徴や技術力を持つことである。このように企業のスタンスを明確にすることにより「これを依頼するにはこの会社」といった差別化をはかり、ブランド価値を確立させることができる。
印刷業は受注産業であるため、受注がない限り仕事が発生しない。そこで、継続した受注をもらうには顧客の満足度を向上させることである。それには顧客側のビジネスと共に成長をはかるパートナーになることである。顧客に密着し、新規開発や、マーケティング、宣伝広告など幅広い領域を取り込んで、コンサルティング会社のようなサービスを積極的に働きかける提案型の業務体制を構築していくことで新たな事業展開が可能となる。
また、インターネットや携帯電話等の普及により、webを中心とした情報発信の割合が増えてくると印刷需要の減少が考えられる。しかし、印刷業界が情報メディア産業に積極的に参入し、電子媒体と印刷媒体と組み合わせた形を行い、相乗効果を追求し、新たな印刷需要を作り出していくという方法も考えられる。
このように印刷は刷るだけの従来の業務領域だけでなく、むしろその他の領域に力を入れることが重要となっている。今後ますます、そういった領域の拡大やサービスの特化が進み、印刷業という形から枠を越えた会社が増えていくだろう。特にメディア産業との提携は新たなビジネスチャンスを生む可能性を秘めていると考える。

現在の印刷産業は大きく変貌していく過渡期を迎えている。今後、各企業が生き残るためには、様々な戦略に打って出て現状を打開していく必要がある。しかし、解決策を見出していても、実際に内側からの変革を実行できる企業はまだまだ少ないと感じている。職場内に根強く残る古い考え方や、企業体力の低下、新規事業に伴うリスクを重視する企業体質などがその弊害となっていると考える。弊害を一つ一つクリアしていく企業努力が尚いっそう必要となっていくであろう。企業である以上、利益を追求することは大切な事である。しかし、利益至上主義に走りすぎ自社の存続、繁栄ばかりになってはならない。様々な事業展開をしていく中でも、大前提となるのはお客を一番に考えることである。製品の向こう側にあるお客を見据えることが、サービスや品質の向上につながり、企業としての信頼を築けるのである。お客に喜ばれるものを創造していくことが印刷産業のみならず、ものづくりの原点と考える。

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