「楽しい」を仕事にする
第20回産業論文コンクール 優秀賞
SUMINOE株式会社奈良事業所 林 大輔 氏
「楽しい」を仕事にする
「仕事は順調?楽しい?」
入社して早4ヵ月、家族・親戚・友人からこんな言葉をよく問われる時期になった。口ではYESと答えているものの、正直のところまだよくわからない。本心からYESと答えられるようになるには、どのように仕事をすれば良いだろうか。
私は、1ヵ月の研修期間を経て、奈良工場の開発部署に配属された。入社早々新規開発に携わり、1年目から開発テーマを2つも担当させてもらっている。また、仕事を通じて社内外様々な方と関わることができる機会も多く、客観的に見れば会社から期待されており、「仕事は順調」といえるかもしれない。では、今の仕事は「楽しい」のだろうか。楽しさを判断するために、環境面と内容面に分けて考えてみることにする。
環境面というと、職場環境が云々と巷でよく言われるように、まず人的要因が挙げられるだろう。私の場合、同期こそ全国に分散してしまっているものの、定期的に交流する機会は設けられている。また、部署の上司は親切で、社内のランニングサークルでお世話になっている方々もいる。さらに、開発業務においては自分の意見や提案を汲んで実施できる機会が多く、とても恵まれた職場環境であると感じている。それでは、人的要因以外の環境面はどうだろうか。真っ先に思いつくのは、働く場所、つまり地理的要因である。ありがたいことに、私は現在も実家に住まわせてもらっており、慣れ親しんだ奈良県での社会人生活をスタートできている。このことから、人的要因・地理的要因ともに、何不自由ない環境であるといえるだろう。つまり、環境面においては、ストレスなく仕事に取り組めているということだ。それでは、「ノンストレス=楽しい」という考え方で、果たして良いのだろうか。確かに、ストレスがなければ仕事に対してマイナスな感情は抱いていないのだろう。ただ、それだけで「仕事は楽しい」とはいえない。
そこで、内容面から感じる仕事の楽しさについて考えてみる。内容面というと、企業の分野、自分の職種、実際の業務内容と、大きな枠組みから小さな枠組みまで考えられるだろう。まず、就職先の分野自体に興味があり好きであれば、その仕事を楽しいと思えるのではというのは、自然な発想である。例を挙げるならば、子供が好きだから保育士になる。お菓子作りが好きだからパティシエになる。動物が好きだから飼育員になるといった事例だろうか。このように、好きなことに携われる分野を選択して働く人は大勢いる。しかし、会社員、俗に言うサラリーマンのほとんどは、就職先企業の分野自体に興味があるとは言えないのではないだろうか。実際、私も住江織物株式会社、つまり繊維系の分野へ入社することに決めたのだが、繊維自体に興味があったわけではない。就職活動を進めていく中で、直観で良いと感じたに過ぎない。しかし、そのようなサラリーマンであっても、楽しく仕事に取り組んでいる人はたくさんいるだろう。そしてそのカギは、職種や実際の業務内容といった、分野よりも小さな枠組みの中にあるように思う。職種および業務内容については、実際に入社後経験してみて初めて、自分に合っているか、好きか嫌いか、楽しいと感じるかがわかるだろう。いうなれば、分野が先天的な楽しさ、職種・業務内容が後天的な楽しさである。つまり、仕事を楽しんでいる世のサラリーマン達は、後天的に楽しさを見出しているといえる。では、私の場合は、仕事のどこに楽しみを見出せば良いのだろうか。
この答えは、これまでの自分の経験や趣味を顧みることで、おぼろげながら浮かんできた。ここで、自己紹介を簡単にしておく。学業面では、私は化学を専攻しており、大学院では有機合成の研究に取り組んだ。また、趣味はマラソン・料理・ドラゴンクエストである。学生時代から現在に至るまで、午前中にランニングをし、昼食を自作し、午後にドラゴンクエストをするのが休日のルーティーンとなっている。一見、共通性がなくバラバラの専攻・趣味に思えるが、これら全てがある1点において関連することに気が付いた。それは、「新しいモノを作る」ということである。それぞれについて補足するならば、大学院の研究は未知化合物の合成、マラソンは己の肉体のアップデート、料理は新しいレシピの開拓、ドラゴンクエストはキャラクターの育成といったところだろうか。したがって、私の場合は「新しいモノを作る」ことに楽しみを見出すことが、仕事を楽しむための近道であると考えられる。
さて現在、私は冒頭で記述した通り、新規開発業務に携わり、2つのテーマを担当させてもらっている。つまり、「新しいモノを作る」ことができる最高の環境を与えられているわけだ。それなのに、仕事が楽しいかという問いには本心でYESと答えることができていなかった。その原因は、まだ入社して日が浅く、まだ何も「新しいモノを作る」ことができていないからだ。趣味について振り返ってみても、はじめから楽しかったわけではない。マラソンが楽しいのは、目標記録や順位を達成するための練習メニューを計画し、試行錯誤できるからだ。料理が楽しいのは、味覚という形で上達を実感しやすく、お店で出会った味の再現や創作料理なども可能になるからだ。ドラゴンクエストが楽しいのは、立ちはだかる強敵への対策を立てキャラクターを育成することで、物理攻撃だけでなく、呪文・特技・回復・防御・アイテムなど、様々なコマンドを駆使して攻略していけるからだ。
「新しいモノを作る」過程にはいくつもの失敗や壁があり、それを乗り越えるまでの試行錯誤と達成感が楽しさを生み出す。この論文を通して、「楽しい」の本質に改めて気づくことができた。今後仕事を進めていく中で、装置を壊す失敗をするかもしれない。クレームで損金を出すかもしれない。様々な失敗や壁に直面することになるだろうが、試行錯誤を繰り返し、1つずつ乗り越えていくことで、
「私は仕事が楽しいです。」
そう胸を張って言える日がくるだろう。