感動を伝え続けるモノづくり
第2回産業論文コンクール 優良賞
共同精版印刷(株) 丸山 理沙さん
モノづくりとは何か。参考書に載っているわけでもない。誰かに聞いても上手く言葉に出来ないという人が多い。それは読んだり聞いたりして学ぶものではなく、体で感じることなのだと気付いた。
印刷会社では様々なモノを生み出している。1センチ程度の小さなものからポスターや包装紙などの大きなものまで。しかし大きさはどうであれ、それが出来上がるまでには長い時間を費やして悩み、考えた経緯がある。適当に、簡単に決めてしまったものなど1つも無い。それは印刷会社とお客様との間に「良いモノをつくりたい」という共通の思いがあるからなのだと思う。時間を掛けて、何度も校正を繰り返し、営業は走り回って、お客様にも確認を急いで頂く。実際に印刷機に辿り着くまでには多くの時間と苦労がかかる。しかし、出来上がったモノをお客様よりも先に見た瞬間の感動は言葉に言い表せない。またそれをお客様にお見せし、喜んで頂いた時にはその感動は最高潮に達する。初めて原稿の受け取りから納品までを自分の力だけでやり遂げた時には本当に涙が出そうだった。そして、この気持ちを忘れてはいけないと思った。この感動を味わうために、私たち印刷人は日々の努力と苦労を惜しまない。
それでもやはり、同じように時間をかけて作り上げたものを気に入って頂けないこともある。イメージと違う。これでは使えない。刷り直して…。印刷人にとって、これほど辛いことはない。しかし、お客様はもっと辛いだろう。忙しい時間を割いて打ち合わせをしたのに、こんな仕上がりとは…とがっかりされているだろう。お客様にそんな思いをさせないためにも、私たちは細心の注意を払うべきだし、何よりお客様との確認を欠かさない。原因は確認ミスだった、ということが多い。きちんと打ち合わせさえすればトラブルは無くなるだろう。
印刷とはどういうものか、イメージが沸かない人も多いと思う。私も入社時は何も分からなかったし、今でも分からないことはたくさんある。印刷はすごく身近なのに、すごく遠い存在のように思える。それだけ地味な業種だということかもしれない。しかし私たちは地味で暗くても仕事に誇りを持っている。人に感動を与えることが出来て、自分も感動出来るモノづくりはとても素晴らしい。
「印刷物は全てオーダーメイド」という言葉を、営業部に来た頃に先輩から教えて貰った。何でもないような言葉かもしれないが、私はこの言葉で自信が持てた。お店に陳列されている服を買うより、自分のサイズを測ってオーダーメイドで作る方が感動は大きいだろう。毎日の仕事がどんなに小さく感じても、最後には大きなものが出来上がる。小さな積み重ねが大きなものを生み出すのだと実感した。「モノづくり」とはこういうことなのか、と少し理解出来た。
印刷物は世の中に溢れている。毎日読んでいる新聞も、毎月買っている雑誌も、たくさんの教科書も、全て印刷物である。人間が一生の間に印刷物に触れる回数は、数え切れない。しかし印刷業に携わることが無ければ、その有難さや大切さ、またそれが出来上がるまでの苦労を考えることも無いだろう。私も高いお金を払って買った本が面白くなければ最後まで読むこともせずに捨ててしまったこともある。何も知らなければ、それだけ軽い存在なのかもしれない。
IT化する時代の中で、今時紙への印刷なんて流行らないかもしれない。効果が無いかもしれない。実際、去年まで毎年印刷の注文を頂いていたお客様から「今年からデータで処理することになった」と言われることもある。新聞だってわざわざお金を払って読まなくても、インターネットに繋げば新聞に載っているよりも新しい情報がどんどん入ってくる。紙への印刷がどんどん減ってきているのは事実だ。プリンターの進化で、自社内、家庭内で印刷を済ませてしまうというお客様も増えた。
営業が駆け回って仕事を探し、せっせと印刷機を動かす時代ではないのかもしれない。私たち印刷人のやっていることは、時代遅れなのかもしれない。でも、私たちを必要としてくれる人が、感動を共に出来る人が存在する限り、私たちはこの仕事を続けていきたい。時代がどのように変わろうとも、この世から印刷物が消えることは無いだろう。
感動を伝え、残していくモノづくりを次の世代に伝え続けるために、私たちはこれからも走り続ける。