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奈良県の更なる発展に向けて

第2回産業論文コンクール 努力賞
共栄社化学(株)奈良工場 吉増 千紘さん

入社と同時に同じ近畿圏にある滋賀県から奈良県に転入し、半年が経ちました。転入する前に奈良県と聞いて思い浮かんだのは、多くの人と同じように『古都』『鹿』でした。観光地として有名な奈良ですが、実際長年住んでいる人に「奈良の魅力」「レジャー」を尋ねてみると、予想外に「ない」「大阪に遊びに行く」と答える人がほとんどでした。大学時代に通っていた、同じ『古都』としての魅力を市民にも十分に伝えていた京都と比較すると、貴重な文化遺産を有する県民の意見としては残念なように感じました。そこで、この機会に奈良県の現状を理解し、今後どのように発展できるか、について考えてみました。
始めに、基本的なデータを近郊府県と比較しました。*1

Fig.1 には、奈良・滋賀両県の類似した値のデータをまとめました。生産人口率が高く車社会であり、転入者も多いことが特徴的です。新たな転入者のもたらす経済効果や働き手など、都市が発展する要因はそろっているといえます。老年人口率のデータより、近畿全体に若い世代が多いことがわかり活性化しやすいと考えられます。自動車保有率の高い都市は、電車などの交通網が十分でなく、車でしかいけない郊外に大型ショッピングセンターがある、などが特徴です。近年、橿原市に建設された「ダイアモンドシティ」は大型駐車場や映画館などの娯楽施設を備え、県民が週末を県内で過ごすのに十分な魅力を備えているといえそうです。
 次に、異なる値を示したデータをfig.2まとめました。

 

外国人人口について、奈良は他の3府県より低い値を示しました。京都では、日常生活でもコンビニや電車で外国人をよく見かけます。けれども、奈良では未だ出会ったことがありません。京都は文化を海外から学びに来る人が多く、滋賀についても大企業の工場や大学への留学生などが貢献しているのではないかと思われます。
Fig.1で転入率の高かった奈良ですが、fig.2より転出率が転入率を上回り、結果的に社会増加率は-3.4%と全国45位になっています。核家族の割合が3府県と比較して高いことから、奈良県には転勤の多い若い家族が多いと推測できます。
最後にfig.3で興味深いデータをまとめました。

 

Fig.3から、持ち家率が低く、そのため住宅ローンも低くなっていることが読み取れます。これはfig.2の転出率データを反映していると言えます。野菜の漬物に関して、『奈良漬』が有名ですが比較した4府県の中で1番低くなっていました。家賃も、駅前などの便利なところに賃貸住まいの人が集中しているのか、京都府よりも高い数値でした。
近隣府県と比較して特に気になったのは、県民が『奈良』という地域に定着していない点です。
近年、大阪府のベッドタウンとして特に北西部の生駒や学園前、五位堂辺が栄えています。しかしながら、この地域の住民は、元々大阪市や京都市に住んでいた人が多く、大阪府に近いため、休日も大阪府に出かける可能性が高いと思われます。それゆえ、奈良県内のことには関心が低く、インターネット百科事典*2でも、「奈良府民:自分の意見をあまり言わないという特徴を持つ。そのため無党派がとても多く、そのため奈良府民が多い奈良県北部の自治体(奈良市、生駒市など)が関係する選挙の予想はつきにくく、テレビや新聞が予想していた結果とは正反対になる事が多くある。」と紹介されています。住民が増え一部の産業は栄えますが、地域に関心のない人が多いために全体的な発展が進んでいないのではないかと感じました。また、京都では『抹茶』、大阪では『お好み焼き』が有名でよく街中で見かけます。しかしながら、奈良で思いつく『奈良漬』は、日常生活においてあまり見かけることがなく、『鹿せんべい』は場所が限定されていて、住民に浸透していないと感じます。
以上では、大まかな奈良県の現状・問題点について、データや私自身が感じたことを中心に述べました。一方、この半年で画期的な取り組みにも出会いました。
代表的なものは、なら燈花会です。
奈良県への観光客は、春と秋に修学旅行生や年配の人々が、お寺や鹿を目的に来ることが主です。しかし、古都を認識し過ぎるためにイメージを守り続けている、つまり新しい試みに対して保守的であると感じます。8月末に『奈良ドリームランド』も閉園し、レジャー施設も減っています。けれど、燈花会は奈良公園やお寺に夏の風物詩である灯篭を置き、インターネットやJRの駅の広告などで多く取り上げられ期間限定のイベントとして夏期の話題性も十分備えていました。私も今年初めて存在を知り、足を運びました。「ゆったりと時の流れる世界遺産の地、奈良に集う人々の祈りをろうそくの灯りで照らし出します。」の言葉通り、新しい視点で古都の魅力を感じられ、観光名所をうまく生かせていると思いました。しかしながら、まだまだ課題は多く、1番大きな問題は資金面です。地域ボランティアを採用していますが、当日の募金活動も行っている点から、地元からの支援・観光客からの収益を更に上げる必要性があります。実際、燈花会には県内より県外からの来訪者のほうが多いという統計もでています。燈花会を目的に奈良に訪れた人が他の観光名所、さらには奈良県の特産物・工芸品にも興味を持ってもらえるように、街全体での「ならまち」のフィールド作りが必要です。
奈良県は貴重な文化遺産を有しつつも、十分に産業に生かしきれていない、また、県民のそのことに対する意識も低いことが残念です。
『古都』を生かすなら、京都のようなお寺周辺の古い町並みを生かしての食べ物や工芸品の集まったお洒落な通り(例:二年坂や清水道)・春秋の景色を生かした特別拝観及び交通局による関連ツアーに期待できそうです。ベッドタウンを生かすなら、その近隣に週末を車で移動することの多い家族をターゲットに、道路網や駐車場を整備した商業施設や娯楽施設の建設を更に進めるべきだと思います。奈良ドリームランドは、目的地までの道路が混雑していた・車が主な交通手段だったことにも問題があったと感じました。
五年後には『平城京遷都1300年』を迎えます。県民1人1人が、その記念すべき節目に向けて主体的に街づくりに参加し、改めて自分たちの住む『奈良』を認識しなおす必要があります。住民の意識向上により、元からあるものに新しい魅力を加えた『奈良』の今後の発展を期待するとともに、私自身も貢献していきたいと思います。

参考:
*1統計庁HP参考 http://www.stat.go.jp/
*2ウィキペディア百科事典「奈良府民」

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