紙の価値の向上を考える~印刷会社がとるべき行動~
第19回産業論文コンクール 最優秀賞
共同精版印刷株式会社 尾方未侑 氏
『 紙の価値の向上を考える~印刷会社がとるべき行動~ 』
目次
1.はじめに
2.減らすべき紙物と残すべき紙物
3.記憶に残る印刷物を提供するためには
4.おわりに
1.はじめに
私は今年の3月に大学を卒業し、4月1日に共同精版印刷株式会社の大阪支社営業部員として入社した。最初の一週間ほどは社外研修や本社の工場、制作部での研修を受けた。インキのにおいやオフセット印刷機の稼働する様子などを五感で学ぶことにより、印刷物への解像度が高まった。それと同時に、高品質な印刷物を提供するにはそれなりのコストがかかっていることが分かった。ⅮⅩが進む中で、印刷物にかかるコストは「資源の無駄遣い、時代遅れ」と言われ、印刷業界は不況に置かれている。
そのような状況下で印刷会社に入社した私は、もちろん時代に適した商品を提供していきたいと考えている。しかし、本当に紙物が不利な時代なのだろうか。私はむしろ、今まで無駄に大量生産されてきたような印刷物が減少することで、「この時代にあえて紙物を作る」ことが紙の価値向上に貢献するのではないかと考えた。
本論文では紙物の課題を踏まえながら、印刷会社として取るべき行動と、新入社員である私が努力しなければならないことについて論じる。
2.減らすべき紙と残すべき紙
『「法人企業統計調査」によると、 2021年度の「印刷・同関連業」の売上高は7兆6,652億円だった。印刷業界は出版不況だけでなく、ペーパーレス化・デジタル化に伴う需要減退もあり、2003年度(18兆2,109億円)の約4割まで市場が縮小している。』(株式会社東京商工リサーチ 印刷業の倒産が前年度から一転増加へ 紙需要減に加え、コロナ禍が経営を直撃
https://www.tsrnet.co.jp/data/detail/1197453_1527.html 2023/08/07)
ペーパーレス化は紙の生産業者だけでなく、印刷業者も深刻なダメージを受けている。実際に当社も印刷物の受注、必要数が減少している案件もある。紙物の受注だけでは売上が減少していくだけで、HPの作成やデータのみの納品などを行っていることを上司から伺った。
本章では紙の価値の向上方法を考える前に、需要が減っている「無駄」といわれる紙と残すべき紙の具体例を挙げる。そして、なぜそのように区別できるのか考察することで、紙物の価値向上方法の糸口をつかむ。
まず、「無駄」「時代遅れ」とされる紙物はどのようなものだろうか。思いつくのは伝票、特に請求書である。インボイス制度適用による請求書の電子発行の発展が予測され、紙での発行減少は目に見える。これをわざわざ紙で作り続けることは「無駄」に該当するだろう。電子化することにより、封筒に入れる作業や郵送費用がかからなくなるからだ。紙が無駄という考えは、物価や輸送費、人件費の上昇によるコスト意識の高まりがあると私は考える。
その一方、あえて紙の必要性を感じる時はどのような場合か。
私は、思い出や後世に残したいものはデータでなく、実物で残す需要があると推測する。私たちはこれまで、先人らの歴史を残された木簡や書物で読み解いてきた。もし今の歴史がデータのみで記録された場合、千年後そのデータを確認できるのだろうか。データでは残る保証がないため、あえて実物で残している側面があると考えられる。身近な例でも、スマートフォンで撮影した写真からわざわざアルバムを作るなど、無駄に実物は作られていない。
逆に言えば、私たち印刷会社はチラシ一枚作るにしても、記憶に残るような紙物を作れば「無駄」とは言われなくなるのではないか。
3.記憶に残る印刷物を提供するためには
紙の価値を向上させる方法として、記憶に残るような印刷物を提供するためには、まず無駄な部分をなくさなければならない。一つの解決方法として、FSC認証を認知も含め拡大させることで、紙は無駄という意識ごと薄めさせることはできないだろうか。FSC認証を受けている製品は、適切な森林管理のもと収穫された木材を使用している。さらに流通や加工など、消費者に届くまでに関わる全ての組織が認証を受けていなければ、認証をアピールするロゴマークを使用することができない。これらの認知が広まれば目に留まっていなかったマークが注目されるようになり、製品の価値が増すと推測する。また、反対にFSC認証を受けていない製品が消費者から選ばれなくなり、環境に良いものだけが残っていく可能性もある。この動きはSDGsの12番目の目標「つくる責任つかう責任」にも貢献できる可能性があり、印刷会社としても積極的に取り組んでいきたい。
では、新入社員である私として行動すべきことは何だろうか。まずは、成果主義を身に付けるべきだと私は考える。ここで掲げる成果主義とは、成功した結果のみが重要という考え方ではない。ミスの追及よりも上手くいった場合の理由を考える主義のことである。ミスは無駄な部分に該当するといえるので、引きずってはならない。仕事においては安定した成果が求められる。また、お客様が本当に求めるものを引き出し、提供しなければならない。
4.おわりに
事実として紙物の需要が減る中で、あえて作る紙物が価値の向上につながると仮説を立てた。考察していくと、「無駄」とされる伝票をはじめとした実用的な紙物は減っていくほかないが、無駄を省くことも残すべき紙物の価値を上げることに貢献することが分かった。これからの時代は大量生産ではなく、必要なものを必要な分だけ作る環境への配慮も必要だ。では印刷会社として何を提供していくべきなのか。当社は奈良の印刷会社として、多くの寺社仏閣と取引があることが強みである。記憶に残るものとして御朱印帳などのグッズを提供し、拝観に来られたお客様の思い出と寺社仏閣の歴史に貢献するべきだ。このことは奈良の活性化にもつながる。当社の理念「文化と情報伝達の担い手として、企業の社会的責任の重さを自覚し、印刷産業を通して人間生活の向上、社会への貢献」のもと、これからも新しい価値を提供していきたい。