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当たり前を維持すること

第17回産業論文コンクール 最優秀賞

 三笠産業株式会社  善積沙耶子 氏

 『当たり前を維持すること、変えること』

 2020年、コロナウイルスの流行により、世界の情勢は一変した。マスクをつけ、人混みを避けることが当たり前となり、テレビ電話等のオンラインツールの利用が促進された。私が入社したのは、人々の生活様式や働き方が目に見えて大きく変わった年であった。

 私は現在、人事総務部において、給与や採用などに関わる仕事をしている。配属からちょうど1年が経った今、改めて、自身の仕事の意義と役割を見直すと共に、今後目指すべき姿について考えてみたいと思う。

 人事総務部にとってのお客様は、全従業員だ。全従業員がそれぞれの役割を果たし、かつ気持ち良く働くことのできる環境作り・制度作りが仕事である。

 さて、冒頭述べたように、コロナウイルスの流行は、たった数ヵ月で、人々の生活に大きな影響を及ぼした。企業においてもその影響は大きく、急遽在宅勤務制度を導入するなど、どこの企業も対応に追われた。仕事上もプライベートでも制約が増え、「やりづらさ」を感じた経験は、今や誰もが持っているだろう。もちろん私もその1人だが、同時に、この状況下での仕事を経験できたのは貴重なことだったと感じている。

 例えば、在宅勤務者の労働管理をどうすれば良いのか、コロナウイルスの罹患者が発生した場合、会社としてどう対応すれば良いのかなど、イレギュラーな状況に対してもスムーズに対応できるよう、先回りしてルールを整備するのは人事総務部の仕事の1つだ。この1年、変化の大きい日々の中で、そういった対応を間近で見て、また、関わることができたことは、部署の役割を理解する上で、大きな収穫であった。

 配属されてすぐの頃、人事総務部で行っている仕事が、会社のどういうところにどんな影響を与えるのか、考える機会があった。例えば、正当な人事評価体系を構築できれば、従業員のやりがいに繋がる。給与が正しく支払われることで、安心して継続的に働くことができる。社内教育制度の充実によって、信頼関係の構築や個々の能力の向上が期待できる。私たちの仕事は、製品を作ったり、売上げを上げたりといったところに直接的な影響を及ぼすことはできないが、会社で働く従業員全員を支える、責任ある大切な仕事なのだと感じている。

 人事総務部で1年間仕事をする中で学んだことは大きく2点ある。1点目は、従業員にとっての「当たり前」の状況を維持するのには、想像していたよりも多くの手間がかかるということだ。例えば、毎月決まった日に正しく給与を振り込むためには、勤怠情報の確認やその月特別対応が必要な条項の整理、給与計算、社会保険の手続き等、様々な業務を限られた時間内で取り行う必要がある。もちろん、ミスが無いように、丁寧な確認作業も不可欠だ。これらの業務は、1つ1つは大きく成果が出るようなものではないとしても、欠けてしまうと給与支給金額のミス等に繋がり、多くの人に影響を与えてしまう。こういった、直接携わる人にしか分からないような細かな業務は、どんな仕事にも存在するのだと思う。1人が行った小さな仕事が会社全体に与える影響は存外大きい。1つの仕事を終えるまでには、日々の小さな積み重ねや多くの手間、工夫が必要であり、それらを省かずにこなしていくことが、全体としての良い仕事や良い成果に繋がっていくことを学んだ。効率的に取り組むこと、簡素化を目指すことは当然大切であるが、それが良い仕事をするために必要であるならば、どんな細かい作業や工夫も惜しまず取り組む姿勢が重要だと考えた。

 2点目は、今まで「当たり前」と感じていたことでも、状況の変化に従い、変えなければならなくなる場面は思いの外多いということだ。コロナウイルスによる影響の事例はわかりやすい。採用活動において、今まで対面での面接が当たり前に行われていたが、この1年でその考えは大きく変化した。企業によっては、内定まで一度も直接会わずに採用活動を行うところもあるという。もちろん、コロナウイルスの流行のように、対応を変えなければならないことが明確な状況ばかりではない。時には、気づかない内に、今までの方法が状況にそぐわないものになってしまっている場合もあるだろう。今までの慣習をなんとなく続けるのではなく、その方法を取る理由を正確に理解し、現状にそぐわないことがあれば、積極的に変化させていかなければならないことを学んだ。またそのために、広い視野で状況を確認し、常に先のことを考え、想像していく力が必要なのだと感じた。

 当社の経営理念の中に、「現状否定」という言葉がある。これは、現状が必ずしも最善ではないことを理解し、より良い方法や新しい手法を模索しようという考え方だ。様々な常識が覆りつつある今だからこそ、改めてこの言葉の大切さが感じられる。与えられた仕事をただこなすのではなく、そもそも何のための仕事なのか、どんな目的で行うのかを理解し、時には現状を否定して、別の方法を生み出していけるようになりたい。

 今までのやり方に疑問を呈し、変えていくことは容易ではない。最も難しいのは、それが問題であることに気が付く力をつけることだと考える。自身の仕事の中の問題点や違和感に反応できるよう、まずは目の前の仕事について、意義や目的を正確に認識すること、必要なことには手を抜かず、より工夫できることがないか考えることからはじめていきたいと思う。

 

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