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『「技術者」となるために 』

 第17回産業論文コンクール 努力賞

 住江織物株式会社 奈良事業所  檜垣天祥 氏

  「技術者となるために」

 

 「技術者たれ」

 高専(工業高等専門学校)在学時、よく教員から耳にした言葉である。当時の私にはその言葉の意味などわからず聞き流していた。その後、大学、大学院と進み、社会人となった今、工場というものづくりの最前線に立ってようやくその言葉の意味が少しずつわかってきたように思う。

 私が奈良工場に配属されて早4ヶ月が経った。まだまだ分からないことばかりで戸惑うことも多いが、少しずつ仕事を任されるようになってきた。その中で見えてきた、自分なりの目指すべき技術者としての姿について述べ、これを今後の仕事に対する指針としたい。

 まず、「地道な努力を怠らないこと」である。上司が新入社員の頃、新たな商品の製造ライン構築において、加工条件の選定や品質の安定化のために何日も朝から晩までひたすらデータ採集を行っていたという話を聞いた。この話を聞いて私は、ものづくりと言えば何を作っているか(最終製品)ばかりに目がいっており、それをどのように作っているか(製造工程)ということについてはあまり深く考えていなかったことに気がついた。店頭でキレイにパッケージされて陳列された最終製品からは、その製造工程や製造に至るまでの苦労をうかがい知ることは難しい。しかし、製品ひとつひとつ、その製造工程ひとつひとつにも膨大な技術者たちの地道な努力の積み重ねが隠されていることを忘れてはならないと、強く感じた。そしてこの地道な努力の積み重ねこそ、工場というものづくりの最前線で働くことの面白さであり奥深さであるようにも感じる。私も現在、業務の中でデータ採集を行うことが増えているが、手順が多く何日もかかるようなものもあり、正直面倒に感じてしまうこともある。しかし、このデータひとつひとつが、この小さな積み重ねひとつひとつが、製品の品質や製造工程の改良に結びつくということを忘れずに、よりよいものづくりのための地道な努力を怠らぬようにしたい。

 次に、「トライ&エラーをし続けること」である。奈良工場に配属されてまもなく、私は当社が今まで生産したことのない新規商材の製造に関わる機会に恵まれた。製造工程や検査方法など全てが手探りであったが、私もその一部を担当させてもらい初回生産にあたることとなった。しかし、そこでは事前に誰も予想もしていなかったトラブルが続出した。私は、初めての本格的な現場作業、そして初めて扱う素材や機械を前に、このトラブルにどう対処してよいか、このトラブルをどう解決したらいのか、全くわからなかった。ただ漠然と、機械を動かせばある程度のものは作れると安易な考えをしていた自分は、ここでものづくりの難しさというものをありありと見せつけられたような気がした。その後の数ヶ月間、打合せを重ね、トラブル解消のため原因の予測、そして試作による検証によってトライ&エラーを繰り返し、課題をひとつひとつ解決していった。その結果、完全とまではいかないものの初回生産の時と比べて加工性や品質を大きく改善させることができた。私自身もその一部ではあるが、自身のアイデアで改善に貢献することが出来た。数ヶ月前はどうして良いかわからなかったものも、諦めずに考え、トライ&エラーを繰り返して問題を解決していけばきちんと形になっていく。入社してすぐにこのことを自身の経験として得られたことはとてもありがたいことだと感じる。これから仕事を行う上で、見通しの立たない難しい問題も出てくるだろう。しかし、自身の持つ知識や経験を絞り出し、諦めずに考え、トライ&エラーを繰り返し問題解決にあたっていきたい。

 そして最後に「三現主義の徹底」である。三現主義とは、現場・現物・現実を表し、机上の憶測に頼らず、実際の現場で現物を確認し、現実を認識した上で問題解決の対処にあたるべきというものである。学生時代の勉強は理論中心であり、こうすればこうなるというものが教科書であらかじめ分かっていた。また、実験においても手順通りさえやればきちんと動き、きちんと動かなければどこかの手順が間違えている、というふうに原因と結果が明快であった。しかし、実際の現場には教科書はなく、手順通り、理論通りとはいかない。先程述べた新規商材の生産においてもこのことを強く実感させられた。技術者として現場の問題解決を行う上で、教科書や参考書だけの知識でハイハイとわかった気にならず、実際に現場に出向き、自分の目で見て確かめることを徹底していきたい。

 ここまで、自分なりの目指すべき技術者としての姿を述べてきたが、まだまだ自分は「技術者である」、と胸を張って言うことはできない。しかし、技術者たらんとすることは今の自分にもできるはずである。地道な努力を怠らず、トライ&エラーをし続け、現場に出向き、自分の頭で考え手を動かし問題を解決する。そんな「技術者」に、私はなりたい。

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