ホーム > 産業論文コンクール > 過去の入賞論文 > 第15回産業論文コンクール(令和元年度) > これからの企業・仕事を考える~様々な「コスト」への意識~

これからの企業・仕事を考える~様々な「コスト」への意識~

第15回産業論文コンクール 努力賞
住江織物株式株式会社 奈良事業所  加藤弘樹 氏

 

 『 これからの企業・仕事を考える~様々な「コスト」への意識~ 』

 

  今年の4月、私は晴れて学生から社会人になった。この変化は私の人生において考えてみても大きな転機の一つであり、これ以上の転機は将来を見据えてもそうそうあるものではないだろう。まだ研修期間ではあるが社会人として過ごしてきたこの数か月で学生の時とは少しずつ見方や考え方が変わってきた。このことを踏まえて自分がこれから社会人として生きていくために心がけていくことについて考える。
 大学生の時、私はいろいろな企業と共同研究をしていたため、企業の方々と接する機会は多々あった。その時の私から見た企業というものは研究を礎にして何か新しいモノを開発して世に送り出すといったイメージであり、大学の研究の延長線上にあるものだと考えていた。しかし実際にいざ社会人になってみると、企業というものは大学の延長線上にあるのではなく価値観から目指すところまで根本的にベクトルが異なるものであるということに気づいた。
 企業は大学とは異なり利益至上主義である。大学の研究というのは何かテーマがあってそのテーマについて学術的に追及することが目的であり、金銭的な話は二の次である。それに対し企業は営利団体という顔を持つため、第一に利益について考えなければならなく、会社の生き死にはいかにモノをつくって利益を出せるかにかかっている。私は入社後しばらく工場研修をしていたが、工場を見ていると製品の生産効率をいかに高めるか、ロスをいかに減らすかといったお金の話が常に飛び交っていた。大学時代、ラボレベルの実験しかしていない私の感覚では、ロスが数%といっても多いのか少ないのかイメージがわかなかった。しかし「塵も積もれば」ではないが工場レベルの生産量は桁がはるかに違うため、そのうちの数%のロスを出すと大きな損害である。企業、特に私が働いているようなメーカーはより儲けを出すために、生産する上で収支をいかに黒字にするかを考えなければならない。利益を優先する企業と、学問の追求をする大学では「コスト」に対する感覚は大きく異なるため、企業の中で社会人として生きていくためには、このコストに対する感覚を身につけていかなければならない。ではこのコストに関する感覚を身につけるためには何をすればいいのか?
 そもそもコストとは何か?と考えてみた。辞書で「コスト」を調べてみると「物を生産するために必要な費用、原価、生産費」(大辞林)と出てくる。私のイメージでもコストという言葉を聞いたときにお金の話かな?と思い浮かぶ。しかしモノを生産するのに必要なものがコストだというのなら、お金の話だけではなく時間や労働力、頭脳といった要素もコストではないかと考えられる。これらコストの要素のうち時間について掘り下げてみる。
 大学時代、自由に使える時間がたくさんあったため気づかなかったが、社会人生活を送っていると自由に使える時間は限られてきて、その時間をいかに有意義に使うかを考えなければならない。私は旅行が好きで大学生の時よく旅行していたが、お金に余裕がないので移動手段は青春18切符を用いた鈍行電車、夜行バスを使うことが多かった。しかし社会人の中で出張時や休日に旅行に行くための手段として鈍行電車や長距離バスを用いる人はほとんどいないように思われる。大半はお金をかけてでも新幹線や飛行機を用いて短時間で移動するのではないだろうか?このように社会人、特に忙しい人ほど無駄な時間を減らすためにコストをかける。私の働いているメーカーという業種はいかに多くの製品を世に送り出し、高い利益を出すということが目的であり、多くの製品を世に送りだすために開発や生産の高速化、効率化が求められる。そのために他社との連携、大学との共同研究などの方法がとられている。このように時間的コストを減らすことは、無駄を減らし物事を効率化することにつながっているのである。これは先ほど述べたコストの要素である労働力や頭脳にも当てはまる。例えば、一人でできる仕事のところに人をたくさん配置しても多くの人が手持ち無沙汰になってしまうだけであるし、誰でもできる単純作業に優秀な人を配置することは明らかな無駄である。つまりかけたコストあたりにできる仕事量を大きくすることが、仕事の最適化につながるのである。
 しかし単に無駄をなくし効率化して、何でもかんでもスピードにこだわればいいかというとそれだけではいけない。メーカーという立場は、世の中が求めているものをいかに早く見極め開発し世に送り出していくことが使命だと考えるが、世の中のニーズは時代とともに絶えず変化し続けている。同じものを作り続けていても、いつか求められなくなる時がある。その時に備えて、時には新規商材、新規技術を開拓するために時間や労力といったコストをかける必要がある。それが長い目で見たときに企業の新たな武器になることもあるのだ。つまり様々な時間軸で見てここはコストをかけないといけない場面かコストを減らすべき、すなわち効率化を目指す場面かを見極める必要がある。
 このコストをかけるかどうかを見極める目を養うために私ができること一つ目は自社の現状、世の中の流行を把握することである。まずこれらの情報収集をしないことには、何をどのくらい生産したら売れるのかを予測することができない。そのためには自社の技術、製品のことについて学んだ上で、展示会や講演会に積極的に参加、もしくは販売店に行って実際に売られている商品を調査することが世の中の流行について知るための近道であると考える。一見自分の仕事と全く関係のなさそうな分野でも、観察すると意外なところでヒントになることもあるので常に「こういうものがあればいいな」という考えを持って物事を観察すると、なおアイデアが浮かびやすいのではないだろうか?
 二つ目は普段からコストを踏まえた計画を立てる習慣を身につけることである。計画を立てる段階でかかる時間、かかる費用、労働力といったコストを洗い出すことができるため、業務をこなす上で優先順位を判断することができると考えられる。
 これらコストの見極めの習得には、ある一定の経験が必要であり一朝一夕ではできない。しかしこのコストの見極めを習得することができれば、ある業務に必要な分だけ時間や労力といったコストをかければいいということになるので仕事を効率化することができると考えられる。そのために常日頃からさまざまな時間軸でコスト収支の意識を念頭に置きながら業務を行い、しっかりと経験を積んでいきたい。

このページの先頭へ