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社会人として成長するために

14回産業論文コンクール 努力賞
 住江織物株式会社 奈良事業所  関口一嗣 氏

 

 「これからの企業・仕事を考える」~社会人として成長するために

 

 私が今年の四月に住江織物株式会社に入社し、現在の部署に配属されて4カ月が経った。私が配属された部署は、主に内装製品の開発をしている部署である。開発といっても、ただラボの中でモノづくりをしているわけではない。一つの製品を作るにあたって、原材料の選定、適切な加工条件の見極め、そのための協力会社との打ち合わせ、お客様の要望を知るための打ち合わせ、ラボで作製した試作品の評価、量産する際の現場との協力・・・など、一つの製品の提案からお客様に購入していただく過程の多くに関わっている。配属直後からは先輩社員の仕事の補助をしており、最近では少しずつだが、仕事を任されるようになった。その業務を通じて、自分が社会人として成長するための行動を考えるようになった。では、その社会人としての成長とはいったいどういうことを示すのだろうか。
「仕事を通じて成長していきたい」
 私が昨年の就職活動中によく聞いた言葉だった。集団面接では、他の就職活動生からその言葉をよく耳にし、私自身もよくそのような事を面接で話していた。実際、その発言をしていた人で、「人としての成長とは」を自分の中の答えを持っている人はどれくらいいただろうか。少なくとも私は、当時は自分の中の答えがよくわからないまま、「成長とは専門知識や技術の習得」くらいだと考え、発言をしていた。その考えは現在の部署に配属されてもすぐには変わらなかった。配属されてすぐ、先輩社員に部署の業務内容、製品の構成や量産工程など基礎を教えていただいた。しかし、直接話を聞いてもすぐに理解できないところや、会議や打ち合わせではわからないことだらけで、議論に置いていかれる日々だった。この時、私は改めて「成長とは専門知識や技術の習得」と考えた。先輩社員からは日々、仕事を教えてもらい、また、仕事をしていく上でのアドバイスを頂いた。そのアドバイスとは「どういう社会人になりたいか意識して働いたほうがいい」という言葉だった。その言葉を聞いて、私は成長についてこれまでより深く考え、初めて「成長」について調べた。そこで私は、社会人としての成長とは、「豊かな仕事」をするようになることだと考えた。
 成長について考え、調べてみると成長には大きく分けると、「技術的な成長」と「精神的な成長」があると知った。その成長について経営学・社会学を研究していたピーター・ドラッカーに以下の発言1)がある。
 指揮者に勧められて、客席から演奏を聴いたクラリネット奏者がいる。そのとき彼は、初めて音楽を聴いた。その後は上手に吹くことを超えて、音楽を創造するようになった。
これが成長である。仕事のやり方を変えたのではない。意味を加えたのだった。」
 これは、ある指揮者とクラリネット奏者のエピソードだ。なかなかうまく演奏できないクラリネット奏者のその指揮者は、演奏をやめて客席からオーケストラの演奏を聴いてみよと指示した。そこでそのクラリネット奏者は衝撃を感じた。初めて座った客席から『お客様の視点』で演奏を聴いたのだった。彼は、クラリネットをうまく吹く『職人』から、音楽の『創造者』と成長した。
 私が今まで成長と考えていた「専門知識と技術の習得」はこの物語でいうクラリネット奏者が上手に演奏しているという「技術的な成長」である。「技術的な成長」は新入社員の私にとってとても重要ではあるが、私が仕事をする上で本当に大事なのは「技術的な成長」のあとの「精神的な成長」である。私がこれから仕事をしていく上で、様々な問題が起きるだろう。私が配属された部署は一つの製品の提案から量産されるまで過程の多くに関わる。材料選定、加工条件だけでも多くの条件があり、ラボで試作・評価したあとに量産試作・評価など、越えなければいけない問題がたくさんある。また、同じ条件で今まで上手くいっていたのに、突然上手くいかなくなることもあるかもしれない。一つの案件を通して、問題が起きないことはないだろう。そういう時、必要となってくるのが、仕事上で起きた問題の原因を正確に分析し、新しい解決策を考えることや、今までの知識や経験を生かして新しい製品を創造することであると考えている。創造性の高い仕事をすることが、すなわち、クラリネット演奏者が音楽を創造したように、精神的成長であり「豊かな仕事」をするということだと思っている。
 私が定めた成長=「豊かな仕事をする」ために、私が今一番しなければならないことがある。それは、挑戦して失敗することである。多くの人は失敗を避けたいと思うだろう。私自身、学生時代からずっと、失敗しないようにと心がけて生活していた。そうしていた理由は、周りの目を気にしていたという、つまらない自尊心であった。これまで失敗しないことを積み重ねることが成長に繋がると思っていたが、社会人になり成長についてより深く考えるようになり、挑戦しなければ失敗という経験すら得られなくなるという考えになった。たとえ失敗したとしても、挑戦することで、失敗の経験値という資産を得られ、また同時にモチベーションを得る。そしてまた挑戦する。すると、また新しい経験とモチベーションを得る。そしてまた挑戦する・・・この繰り返しが成長に繋がると考えている。
 一方、成長のために「失敗を恐れない」というのは、口や文章にするのは簡単であるが、実際に行動に移すのは非常に難しいことだと思う。そこで、私は「失敗を恐れない」ために、いい意味での開き直りを実行していきたい。
 「何も知らないと見下される」「考えが足りないと馬鹿にされる」なんて思っているから、大事な事を質問することができなかったり、積極的に行動できなくなるのだ。そもそも、私は社会人一年生で、まだ、周りからの評価や信用を一切得てないのだ。会議では私が一番知識に乏しい。そんな私が今できるということは、積極的に質問をして、不解明なところを理解すること、一つ一つの出来事を経験値として吸収することだと考える。わかった振りをして、何もしないことが、最悪であり、その時はその場しのぎできるかもしれないが、後々、自分の首を絞めることになるのだ。
 これまで書いたことは、成長するために大事な事で、今私ができていないことである。しかし、この論文の執筆を通して、改めて自分の課題点を見つけ、また、目標というものが定まったと思う。あとは、失敗を恐れず挑戦していくだけだ。今の私にとっては、まだまだ難しいことではあるけれど、社会人一年生の私には、それが仕事だと思う。そして、私が今いる環境は成長できる環境に置かれている。したがって、日々、挑戦・失敗・成長していき、社会に貢献できる人材になりたいと、私は思う。

引用

  P・F・ドラッカー・上田惇生(編)

(2003).ドラッカー名言集 仕事の哲学 最高の成果をあげる ダイヤモンド社

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