新入社員として働き始めて
第13回産業論文コンクール 優良賞
三和澱粉工業株式会社 大坪恭子 氏
新入社員として入社してから9月で半年が経つ。外部研修や社内研修、工場研修を経て研究開発部に配属され、今は毎日実験に勉強にと時間が一瞬で過ぎていく。希望していた部署に配属され、恵まれた環境の中で新しい知識を学べることに喜びを感じる一方で、不安を感じることも少なくない。大学で取り組んでいた分野とは全く異なる情報が必要で、圧倒的に知識が足りず、当然ながら経験も不足している。実験結果の解釈に悩み、知識が足りないと文献を読もうにも理解し難いことが多い。自分に足りないことできないことばかり考え、焦りと不安を感じながら日々の仕事をこなしていた。そんな折に、朝礼で上司の方が「自分の努力が良い結果につながらない時は、視点を変えて、会社として良い方向に進むよう行動することが大事ではないか。」というお話をされた。その時、私は自分の視野が狭くなっていたことに気付くことができた。日々の業務は会社が運営される中での大きな流れの一部であることを考えると、目の前の結果にいちいち一喜一憂するのはあまり重要でないように感じ、気持ちが楽になった。しかしここで疑問が浮かんだ。「会社として良い方向とは具体的にはどういうことだろうか?」「そのために新入社員の私がするべきこととは何なのだろうか」
まず前者の疑問に関して考えると、弊社の経営理念には、「素材の提供を通じてお客様の抱える課題解決に貢献する」というものがある。この言葉を自分なりに解釈すると、お客様のニーズに合った確かな製品を開発することで社会に貢献し、会社として利益をあげていくということだと考えた。
食品業界に限らず、最近は様々な市場において消費者のニーズが多様化しているように感じる。ニーズが多様化するようになった要因の1つとして運送網が発達したことが挙げられるだろう。大抵のものは、いつでもどこでもワンクリックで注文でき、玄関先で受け取ることができる。今までは遠くの店でしか手に入らなかった商品が、早ければ注文した翌日には手元に届くようになった。この気軽さは、消費者の選択肢を大幅に増加させる要因となっただろう。また、膨大な情報を受信・発信できるようになったことも大きな要因であろう。インターネットの発達により、ネットと端末さえあれば様々な情報を得ることができる。最近ではSNSが急激に台頭し、著名人や記者でなくとも誰でも情報の発信者となれるため、世の中の情報量をさらに増加させている。知り得る情報量が増えるということは、自分がピンポイントに知りたい・欲しいと思えるコンテンツに出会う機会の増加を意味し、結果消費者のニーズの多様化を生み出しているといえる。
このような市場で、お客様のニーズに応えていくためには、万人受けする商品を開発することは極めて困難であるだろう。しかし逆に考えると、潜在的な需要が膨大な量存在するため、会社の大小に関わらずどの会社も同等に市場をものにできる可能性が高まったのではないかと思う。以上のことを踏まえて、これから会社として良い方向に向かうためには、ニッチな市場で消費者のニーズを満たす確かな製品を開発していくことが重要だと考えた。
一歩視点を引いて、会社の向かう方向を考えると、自分がやるべきことも考えることができた。例えば、ニッチな市場を開拓するためには、様々な分野の情報に興味をもつことが重要となるはずだ。食品業界における流行やこれからの動向はもちろんのこと、海外や他業界の情勢にも目を向けることで、これからの需要を読む何かヒントを掴むことができるかもしれない。自分は視野が狭くなりがちであるが、いつでも一歩引いた、広い視野をもつために、興味の幅を広くもって物事を見ていきたいと思う。視点を高くもつことに加えて、研究を行っていく上では基礎知識の充実も欠かせない。自分で勉強することはもちろん、経験豊富な上司や先輩社員方に積極的に質問し、知識・知恵を吸収していきたい。
とはいえ、この一連の流れを実現することは本当に難しいことだろう。今日実験したことが明日すぐに商品につながるわけではないし、長年の積み重ねが必ず結果を生むとも限らない。研究開発部に配属された時に、上司の方から「長年結果の出ないまま、会社の資産を潰しながら研究をしていくことはつらいとは思うが頑張るように」と激励を受けたこともある。だからといって悲観的になるのではなく、先に述べた「お客様のニーズにあった確かな商品をつくる」という視点をもち、常に目的意識をもちながら、日々の業務に取り組んでいきたいと思う。新入社員としてすぐに会社の利益に貢献することは難しいとしても、将来の利益に貢献できるよう今は目の前の業務に真摯に向き合っていきたい。