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女性技術者としての心構え

第13回産業論文コンクール 努力賞
ニッタ株式会社 奈良工場  中島麻美 氏

 

 私の会社は、化学メーカーという事もあり、男性の比率が多い。私は同期も今の職場も、自分以外はすべて男性という環境で仕事をしている。最初はいろいろな不安もあり、うまくいかずに落ち込んでしまうこともあった。しかし、入社して1年半が経った現在は、それらの経験から、何が原因でそうなったのかという事や、そこから自分がどう行動すれば良かったのかというところまで考えられるようになった。このように、自分の思考と言動を少し変えることで、それまで感じていた不安は解消されるという事を、この1年半で学んだ。この論文では、このように今の環境で仕事をしている中で感じた不安やその対処法、また、女性技術者としてこれからどう仕事に向き合っていくべきなのかという事について、気づいた事を述べていく。
 まず、自分が今の環境で仕事をするにあたって、なぜ不安を感じていたのか考えてみた。その結果、①男女での会話の違いを理解していなかった②周囲の雰囲気を壊さないようにと意識しすぎていた③男性と同じように力を発揮しようと思っていた、以上の3つが主な原因だったのではないかと考えた。
 ①については、特に同世代でのコミュニケーションに多いが、当初は女性同士で話しているときよりもあまり話を聞いてもらえていないように感じていた。その原因を考えてみた結果、女性の方がよく“共感”し、“察する力”が高いという事に気づいた。女性同士の会話を聞いていると、基本的に共感していることが多く、また、相手や周囲の少しの変化にも敏感に気づいているという事が分かった。ここから、私は男性との会話において、共感が少なくても話を聞いてもらえているのだと理解できるようになった。また、これは男女関係無く、察してもらおうではなく相手に分かりやすくはっきり伝える事を心掛けるようにした。
 ②については、個人の性格にもよると思うが、私は周りの雰囲気を壊さないようにと意識しすぎていたのかもしれない。男性同士の方が盛り上がる事が多いのではないか、相手に気を遣わせているのではないか、と勝手に委縮していた。しかし、実際に話していくうちに、そのような事は無く、自分の思い込みだったという事に気付いた。このように、周りを意識しすぎるが故に自分の意思を伝えられない事は、誤解の原因にもなり、自分の為にも相手の為にもならないという事を理解した。それと同時に、こちらの思い込みで勝手に判断している事は、意外に多いという事にも気づいた。それからは、分からない事があったら、積極的に相手に確認し、誤解をできる限りなくす事を心掛けるようにした。
 ③については、特に体力や力の強さの面で感じる事が多かった。技術の仕事では、重い台車や荷物の運搬や、試験サンプルの作製や治具の準備等、力のいる作業が多い。周りの女性に比べると力は強いと自負していた私だったが、やはりどうしても運べない物や力の足りない作業が出てきてしまった。その際に、先輩や同期に任せてしまうことがあり、それがどうしても申し訳なく、不甲斐なさを感じていた。しかし、以前会社で受けたメンタルヘルス研修で、先生に「男女では体のつくりが違うから、男性と同じように働こうとしなくて良い。」と言われた事を思い出した。その時はそれほど気にしていなかったが、仕事をしているうちに、この言葉の意味が分かるようになった。この経験から、男女さらには人によって得意な事は違うので、できない事に時間をかけるよりも、できる事をできる人が優先的に行っていく方が、効率的であると思えるようになった。どうしてもできない事は誠意を持って他の人にお願いし、その代わりに自分のできる事を見つけてフォローしていく事が大切だと思った。
 以上が、私がこれまでに感じた不安とその対処法である。次はそういった経験から考えた、女性技術者としての仕事への向き合い方について述べていく。
 私の知り合いには、結婚を機に仕事を辞めてしまった女性が何人もいる。そんなリスクがある中でも、女性の社会進出が進み、女性を採用しようとする企業は増えてきている。こういった背景から、女性に求められているものは何なのかという事を考えるようになった。私は、“視野の拡大”と“円滑な人間関係の構築”この2つが求められている事なのではないかと考えた。
1つ目について、最初に述べた①の項目で、私は男女の違いについて理解しようと努めた。その結果、女性の方が“察する力”が強く、細かい事に目が行き届くという事に気づいた。一方、男性は全体的に物事を見る事が得意で、行動力や決断力に長けている人が多いと感じている。このような違いがあるからこそ、女性が組織に加わる事は、視野の拡大に繋がるのではないかと考えた。特に技術職においては、例えば、顧客の要望を満たす製品をつくる為には、その要望に対してより多くの必要項目やリスクを考えられる方が、満足度の高い製品をつくれる。女性技術者として、同じ情報の中からより多くの気づきを見出し、その考えを発信していく事ができれば、組織の視野を広げ、より良い製品づくりに貢献していけるのではないかと思った。また、共感性の高さから、もしかしたら今まで埋もれてしまっていた意見にも焦点を当て、肯定し、周りに認識してもらう事で、視野を広げていく事もできるかもしれないと感じている。
2つ目について、現在は働き方改革が行われる等、働く環境が重視されてきている。そういった中で、“察する力”に長け、相手の気持ちや些細な変化に気づける女性は、組織の小さな変化にも気づいていけると思う。そういった気配りが人間関係の悪化を防いだり、方向性を修正したりする上で必要なのではないかと思った。さらに、技術職の仕事では、自分の所属している組織以外にも、製造現場の人や社外の人とのコミュニケーションも多い。そういった人達との会話の中で、相手のちょっとした意見や要望を捉え、引き出していく事ができれば、それが何かの解決策や、新しい製品開発のヒントに繋がる事もあるだろうし、相手との信頼関係をより深める事にもなるだろうと思った。
 以上の事を踏まえ、私は、①周りと異なる考えを持った時、それを組織にとっての新しい視点であると捉え、積極的に発信していく事。②周りの人とのコミュニケーションでは気づきを大切にし、風通しの良い環境作りを心掛ける事。この2つの事を意識しながら、これから仕事に取り組んでいきたいと思う。

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