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「時間」を改めて考える

第12回産業論文コンクール 優良賞
株式会社 呉竹  深田友紀 氏

 

  文具メーカーに入社してから5か月が経ちました。新しい人々や、今まで経験したことのない仕事に出会い、目まぐるしく毎日が過ぎています。
 社会人になって強く意識するようになったのは、「時間軸」の存在です。大学最後の夏、会社から初めて課題が与えられました。内定者研修課題として、卒業して会社の一員となるまでに、社会人になったときに役に立つ力を身に着けることを目標に掲げ、実現に向けて毎日計画的に取り組むこと。卒業するまでの8か月間という与えられた期間を見据え、月ごとに区切り、最終目標に到達するために各月ごとの短期目標に落とし込んでいく作業を行いました。
 次に、入社して初め2か月の研修期間には、毎日日報を書くことが定められました。1日の終わりにその日学んだこと、気づいたことを振り返る。たくさんの講義や実習があり、書くのに2,3時間かかったことも、日報が何ページにも渡ったこともありました。
 2か月の研修期間が終わり、私は国際部に配属されました。国際部では、1つの注文が来て、商品が生産されお客様のところに届き、代金を頂くというその一連の流れに数か月かかることもあり、先輩方はこうした長いスパンの案件を一人で月20件も30件こなしていらっしゃいます。先輩方にスケジュールの立て方を教わりました。まず、その月のうちに完了すべきタスクを定め、今週までに終わらせること、今日中に完了すべき業務へと細かく落とし込んでいきます。
 毎朝スケジュールを組み立て、確認し、業務終了時にはその日の業務を振り返ります。内定者研修から新入社員研修をとおして、計画を立て、実行し振り返るという練習をさせていただいていたのだと今になってはっきりと意識することができました。
 基本的なことのように思われますが、この仕事を何分で終わらせるか見通しを立てることも初めのうちは難しく、思った通りに進まないことも多くあり、自分の時間軸を自分できちんと管理することの難しさを日々学んでいます。
 そして、先輩方には先輩方の、他部署の方には他部署の方の時間軸があり、商品にも、原材料の調達から製造が始まって一つの製品として上がってくるまでの時間軸があります。お世話になっている他の会社の方々もそれぞれの時間で動いています。
 一緒に仕事をするということは、自分と、周りの皆さんの時間軸が交差し、共有される時間があるということです。相手の時間を頂いているという意識を持ち、その共有している時間をどれだけ有意義で生産的なものに出来るかを考えなければならないのだと感じました。人に質問をする前にきちんとメモを整理しておくことや、前回の注文のファイルや資料を探せば確認の時間を短縮できます。ひとつ連絡するのにも、直接話すのか、電話にするかメールにするか、どのタイミングで連絡するのかで時間の使い方が変わってくることを実感しています。 
 さらに国際部にいると、その時間軸の前提が同じではないということにも改めて気づかされました。こちらが朝礼でアメリカとテレビ電話をつなぐとき、向こうの日付は私たちより1日前の終業間際ですし、ヨーロッパのお客様に急いで確認したいことがあっても、先方が出社してくるにはこちらが夕方になるまで待たなければなりません。世界の時間を意識し見通しを持って動くことが、これからの仕事に求められているのだと感じました。
 研修期間に受けた墨の講義で、16世紀に生きた程君房という人の作った墨で今なお作品を生み出すことができるということや、はるか昔に書かれた書や水墨画の作品が今も私たちを楽しませてくれているということを改めて学びました。私たちの会社の商品や商品を使って生まれた作品が、何百年後の人々に共有されるかもしれない。今やっているこの仕事の成果が、何年も先を生きる人の時間につながっているかもしれないと考えることができます。
 時間軸を意識し、日々の業務の無駄を省き、メーカーとして生産のコストや時間の短縮が要求されるのは言うまでもないことです。しかし―これは私がこの会社に入社したいと思ったきっかけでもあるのですが、もう一つ大切な時間の捉え方があると思います。
 それは、「趣味」の時間を大切にするということです。入社してから社長を初め、趣味の時間を大切にしなさいという言葉をいただきました。それは時間を短縮するのではなく、時間を「かける」ことでもあります。文房具のメーカーですが、わたしたちは事務用品を売っているわけではなく、お客様の趣味の時間に使っていただけるものを生み出すという心意気を持っています。
 パソコンが普及しメールが主流になったデジタル社会の中で今、人々は再び手書きの温かさを見直す方向に向かっているのだと耳にしました。大量生産で生み出される商品はみな似た顔をしているかもしれませんが、商品を使ってくださるお客様の作品は世界に一つだけのものです。
 誰かに気持ちを込めて手紙を書いている間、無心になって絵を描いている間、人々の心は豊かで幸せなものに違いないと思います。自分の日々の仕事が商品を通して、世界中のお客様の大切な時間の一部分になっていると考えると、やる気が湧いてきます。
 自分や周りの人の時間軸を把握し、共有される時間を効率的で有意義なものにすること、それでいて、ともすれば忘れがちになる、時には時間をかけること、かける価値のあるものを見出すということを忘れないでいること、この両方向の時間の捉え方が、これからの企業や仕事に大切なのではないかと考えます。

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