知識と経験のバランスについて
第12回産業論文コンクール優秀賞
株式会社 タカトリ 大西建嘉 氏
私は、液晶製造装置の電気設計として約1年間、電気関係のハード設計を主に携わった。
学生時代は電子工学を専攻していたため、電気の知識は多少なりとも持ち合わせてはいた。
しかし、実際の業務に生かせる部分はごく僅かな知識のみであり、現在も日々勉強しながら業務に励んでいる状態である。短い期間ではあるが、設計業務の中で私が考えさせられた事柄についていくつかまとめてみたいと思う。
私が今まで、考えることが無かった視点の一つに『製造原価』がある。現在存在している企業が存続していくためには、国内・海外の企業との競争を勝ち抜き、利益を創出していく必要がある。
『モノを創造する』初期段階の業務が装置の設計になる。特に私が携わっていたハードの設計業務は、装置の電気関係の製造原価を決定してしまう。一度設計した装置の部品は、そう簡単に変更できるものではない。もし、同機種のリピートが決まったときは特別な理由がなければ設計変更は行わず、一番最初に設計した図面を元に作成を行う。
以前、私が担当した装置で、制御盤の製造原価が見積りよりも超過してしまうことがあった。私が考案した制御盤内の部品配置の良し悪しが原因で、加工費用が増加したのだ。私としては、制御盤内にきちんと収まる配置に仕上げたつもりであったが、制御盤内の配線作業のことはあまりわかってなかった。そのため、配線作業に時間がかかる配置になっていたのだ。制御盤内の配線も考慮した部品の最適な配置に関して、知識と経験が乏しかったのである。
この装置は一度設計をしてしまったため、リピート機の依頼が来た際には同じ造りにしなければならない。製造原価は、今回の設計金額に固定されてしまう。今後、より効率の良い配置を覚えていき低コストで済む設計を行っていく必要がある。
次に私が気づくことが出来なかった視点が『どの機能を持たせておくべきか』である。以前、お客様に2種類の装置を作成することになり、1種類の装置を私が担当し、もう1種類の装置を別の担当者が設計を行うことになった。両装置は、同じお客様に納入することもあり、設計時の装置仕様を合わせておくよう指示があった。両担当者で合わすべき点について事前に打ち合わせを行い、設計を進めた。
しかし、両担当者の認識の違いからセーフティライトカーテン(安全のエリアセンサー)の繋ぎ方、信号の取り方が両装置で異なってしまった。そのため、使用しているライトカーテンは同じものであったが、できる機能に違いができてしまった。私は過去の装置で採用されていた信号の取り方を参考にし、赤点灯のみ使用でき、ワイヤレス通信の接続方式を採用した。
別の担当者は、赤・緑の点灯ができ、有線での接続方式を採用していた。このような違いの中で、両装置の機能を合わせるとしたら赤点灯のみで使用するしか選択肢が無い。すなわち、私が担当した装置で最低限できる機能に合わせていただくしかなかったのである。私は、ライトカーテンの使用範囲を想定して設計することが出来なかったのだ。この問題は、装置が稼働してから判明したため、設計変更も容易に出来なかった。もし、お客様が赤・緑の点灯を希望された場合、確実に仕様追加の設計変更を行わなければならなかった。その場合、余計な作業時間と費用が必要となってしまう。また、片方の装置は赤・緑の点灯ができるため、使える機能を殺しており、接続・加工作業を無駄にしていることになる。私は、実際に使用する部品の機能に関して、知識と経験が乏しかったのである。自身の担当装置では機能の不足を生み出し、それ以外の部分で機能の無駄を生み出してしまった。今後はどの機能を持たせておくとのちのちに有効かを判断できる思考を身につけていく必要がある。私は、限られた時間内でお客様の仕様を満足した装置を設計していく難しさをこの約1年間で痛感した。
先ほど挙げた2つの実例で共通することは、私は知識と経験が圧倒的に不足していることだ。よく知識は点、経験は線と例えられることが多い。知識(点)が増えると個々の物事へ理解が深まる。経験(線)が増えると知識を繋ぎ合わせることが可能になり、新しいことを作り出せる。ここで注意しなければならないことは、両者の『バランス』だ。知識だけに偏ってしまうと、情報のつながりが無くなり、知識同士が意味をなさない。逆に経験だけだと知識同士の繋がりが無くなり、そのほかでの応用が利かない。新しいモノを設計していくには、それまで無関係だと思われていたアイデアをうまく組み合わせて構築していく必要がある。そのときになって、繋ぎ合わせる点と線が多いことが自身の武器となることは言うまでもない。経験を積むこと、知識を付けていくことを同時に行うことが自身の持っている能力を広げ、より効率的な設計業務を遂行できると考えられる。
知識か、経験か、どちらが先になるかは分からないが自分の能力を高めていくには両方のバランスが重要になってくると日々の設計業務を通じ、私は感じている。とにかく、まずは自分で試してみることが一番の近道ではないだろうか。