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継続する力

第11回産業論文コンクール 優良賞
株式会社 アイプリコム 瀧脇 智香 氏

 

  「継続は力なり」という言葉がある。一つのことを続けることで実力が身につき、成功へとつながっていくという意味を持っており、この言葉を座右の銘としている人も多いだろう。「続けること」とは思いのほか困難で、成功させることが出来れば成長という大きな実りをもたらしてくれる。真意をついた非常に魅力的な言葉であり、また、今の私が志す言葉でもある。
 私は入社以来、オンデマンド印刷業務に携わっている。オンデマンド印刷は、版にインクを乗せて刷るオフセット印刷とは違い、データをそのまま出力する印刷方法である。オフセット印刷と比べると色味やグラデーションなどの質は劣るが、仕上がりが速く低コストで済む。裏を返せば、一つでもミスを犯してしまうと、速く、かつ低コストで仕上げるというメリットそのものを台無しにしかねない。
 入社したばかりの頃、私は業務を理解するためではなく覚えるために必死にメモを取っていた。そして少し慣れてくると気が緩み慢心し、確認さえ怠らなければ起きないミスを何度もするようになった。これは、作業を覚えられても理解が出来ていなかったためである。作業が終わってからミスに気付くことも多く、お客様には勿論のこと、営業の方に何度も迷惑をかけることとなった。更には、自分が注意力散漫な人間であることを思い知らされた。就職活動をしている時は自分の良い所をいかに相手に伝えるかに必死になっており、短所について深刻に考えたことが無かった私は、社会に出て失敗を繰り返すことで初めて自分の欠点と向き合うこととなった。以下は、欠点克服のために私が実際に取り組んだ二点について記述する。 

1.日報を書く(ミスを減らす)

 上述の通り、入社当初は聞いたことをメモすることに必死になっていた。そのメモを読み返すだけでは頭の中を整理することが出来ていないと感じたので、私は新しいノートを一冊用意し、実際に行う作業の内容をできるだけ細かく書く作業を繰り返した
。印刷業務は、全てが同じというわけでは無いが、作業手順を数パターンに振り分けることができる。まず、作業指図書を読み、どのパターンに当てはまるかを判断する。例えば冊子ものを扱う場合、綴じ口やサイズを目で確認するだけではなく、自分で一度ノートに書く。同様に必要部数、納期、印刷用紙に対する出力の位置、紙の種類(紙質、サイズ、厚さ)等も同様にノートにまとめた。書くことによって指図内容を理解すると同時に見落としが無いことを確認することが可能となる。また、万が一ミスが発生した場合、ノートを見返すことで原因を見つけられる可能性が高くなる。作業の中にミスの原因を見つけたら、ノートに付箋をして間違えた理由を書き込んでいく。名刺や一枚ものの作業であっても欠かさずすべてノートにまとめた。結果、日報を書き始めた当初は作業効率や速度が落ちたものの、ミスを減らすことに成功した。また、日報作成を継続して行うことにより、作業の順序を自分なりに組み立てることが出来るようになった。第一の目標であったミスの最小化を成功させるだけでなく、更には作業速度を上げることを次の目標地点として視野に入れることができたのである。

 2.マニュアルの作成(仕事を理解する)

 作業自体は毎日繰り返すことによって自然と体が覚えるようになってくる。しかし、ただ体が覚えて手を動かしていたら良いというものではない。私は受験勉強の時、「誰かに理解してもらえるように説明できて、初めて自分の知識となって身についている」ということを教わった。仕事も同様である。仮に引き継ぐために誰かに教える必要が無くても、一度頭の中を整理し、自分の言葉で文章化することが重要だ。私は業務の流れを、パターン別にマニュアル化することにした。
 「マニュアル」と聞くと、機械の操作方法についてまとめたものだと考える人も少なくないだろう。まずはオンデマンド機の操作方法についてまとめた。電源の入れ方に始まり、用紙の設定、印刷位置の調節、不具合が起こった時の対処法など、既に知っていることも含めてできるだけ全て書き出した。しかし、マニュアル作成は機械だけにとどまらず、人に説明できないものはすべてまとめた。例えば「フェイスアップ/フェイスダウン」や「ソート/スタック」「ドン天」などの印刷用語について、連番があるチケットや金券の印刷手順について、塗りたしのある葉書の面付けやイラストレーターやインデザインを使っての編集などの作業手順について、分からない事や新しく教えていただいたことはその都度まとめている。しかし、まとめたマニュアルは自分以外の人に理解されるように作成出来ていなければ意味がないので、作成後は先輩にチェックをしていただいた。結果、自分が任されている仕事に対する理解を深めるばかりでなく一層責任感も増し、より慎重に作業に取り組む姿勢を持つことが出来た。現在の業務に携わって約一年。初めの数ヶ月はなかなか仕事を覚えられず、何度もミスをした。なぜミスをするのか分からずトラブルが絶えず、仕事が嫌で仕方がなかった時もあった。しかし、諸先輩や上司の方が一緒になってトラブルを防ぐために何ができるかを考え、解決方法を提案してくださった。優しく、そして厳しく指導を受ける中で、私は仕事をするということはどういうことかを理解できるようになった。そして本当の意味での「継続」することの大切さを知り、自身の成長の糧となっていることを身を持って感じている。ただ単純に継続するだけで成長できる範囲は限られている。目標達成の意思をしっかり持って続けていかなければ、いくら続けても自分の力にはならない。私は今、少しずつではあるが、新たに組版業務について勉強を始めている。継続という言葉の上に胡坐をかくことなく。これからも自身の成長に繋げていくために、明確な目標を立てて勉強を続けていきたい。

 

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