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私の働きを誰かの力にするということ

第11回産業論文コンクール 最優秀賞
株式会社 大和農園ホールディングス 岡田 翔 氏

 

 当社に入社してから1年が過ぎたある日、私の配属された部署にある依頼があった。「グリーンカーテン」作成のために指導をして欲しいというものであった。社会への貢献という点から当社も快諾し、私が指導役を仰せつかった。
 
先方へと向かい、作り方を説明したあとに待っていたのは多くの質問であった。この時私は失敗したと感じた。相手の環境や立場を考えた上での“相手の人が作れるための説明”が本当の意味で必要であったのである。この反省を踏まえ、実際の作業ではなるべく作業に対する因果関係を説明することにした。
 
行った作業によってもたらされる未来を想像してもらい、実際にその未来を迎えられるかどうか確認してもらえるようにしたのである。
 
とはいえ相手方も初めての作業に異なる分野の話ということもあって不安は残っているようであった。その不安を払拭するため、私も現場に何度も足を運び、初年度は上々の出来栄えとなり次年の作成も決まった。
 
変化が現れたのはこの2年目である。担当者の言葉にはっとさせられた。「あの作業の意味がわかりました。実際に見てみると違いますね。」と言われ、この時私は初めてこの人が“理解した”ことを認識した。さらに嬉しいことに、相手からこちらに対しての提案や新たな挑戦などもお話いただけた。この年の結果は前年以上となり、お客様がこの活動を“自分のものにした”のが見て取れた。そしてなりよりも嬉しかったのは、未熟ながらも私の中に、誰かに何かを体得させる力が確かにあることを認識できたことであった。入社したての頃は、人に教わるばかりで自分の中に“経験”という力が蓄えられているのか分からずにいた。この体験は社会から受け取るばかりでいた私が、社会に対して何かを提供できたと思える貴重なものとなった。
 
山本五十六は「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ。」と言ったという。何かを教える際には言うだけではだめであり、まずはやってみせることが一番大切で、さらに当人には体を使ってさせる必要があるとの意である。私が日々行っている仕事においても、座学的な知識だけでは実際に行うことができないことが多々ある。当社では植物の種や苗を販売するという業務内容から、お客様に商品の説明をすることは常日頃である。相手の知識、経験、環境によって私たちがお話する内容への理解の具合も当然異なる。相手の中にイメージが形成できなければ大よそ種や苗を育ててみようという気持ちも湧きにくく、必要性がある場合でも未経験からくる不安を無くすことは難しい。大切なことはその心に寄り添い、一歩を踏み出すための力となることである。私たちの経験と自信が後押しとなり、相手の不安の払拭や物事に対するひらめきと理解に繋げることができるのである。
 
現在も沢山の方とお話をしているが、満足できるような受け答えにはまだまだ至らない。“電話”でしか状況を知ることができない、質問についてもはっきりとした答えがない場合も多々あり、先の“やってみせる”ができないことが解決のための壁になることもある。このような体験や新たな課題も会社に勤めているからこそ、社会から受け取れるものではないだろうか。入社したての頃は、目の前の業務をこなすことばかりに気を取られ、私の働きの先にいる人を意識していなかったが、その人たちこそが私が働くための源であり、私自身の成長の証であった。“私の働きを誰かの力にする”ためのヒントをいろいろな人が様々な形で私に教えてくれる。そして、働くためのアドバイスをくれる他の社員たちがいる。そうして積み上げたものが誰かの力となり、私にとっても貴重な経験になっている。私自身も誰かの力を借りずには、誰かの力にはなれないのである。
 
私が働くためには誰かの力が必要であり、私が働くことで誰かの力になっている。このサイクルをうまく回すことが、社会人として生きているということではないだろうか。そうして、私たちの働きを誰かが求めてくれることで私たちが所属する会社も長い年月のなか営業することができ、また私たちも生活することができている。そしてその求めの中には私たちが成長するために必要なことも多く含まれている。それを実現することで私たちが成長したという証とすることができるのであろう。
 
働く日々の中で、お客様に直接関わることのない業務も多々あるが、その先にお客様は必ずいて、私たちの働きの影響を少なからず受けている。だからこそ、今の自分の働きが誰のためなのか、何のためなのかしっかり考えながら社会人としての日々を過ごしていきたい。

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