会社の武器とは
第11回産業論文コンクール努力賞
株式会社 奈良ロイヤルホテル 丸山 雪菜 氏
- 心得ていること
働くということは、「他人(はた)を楽にする」ということだと学生時代に教えられたことがある。私は小さなパン屋さんでのアルバイトを通じ てその言葉の意味を理解していたつもりだ。
理解していたというより、「なるほど。こういうことか。」と実感していたという言葉が腑に落ちる。
同じ職場で働くスタッフ、顧客、雇い主、それぞれの人の立場になって考え行動することが働く上で鉄則であると感じていた。
そして私は卒業して社会人になりホテルのフロントスタッフになった。
未知の世界であったし、アルバイト時代と比べて、顧客の数も仕事の規模もお客様に求められる事柄も、知識も技量も何もかもが今まで経験したことのないレベルだった。もちろん責任の重さもそうである。
しかし、私たち新入社員が戦力になるのには相当な時間がかかる。いかに早く独り立ちするかが勝負どころである。
とは言うものの私は背伸びをせず、「他人を楽にする」という心得を貫き通した。
そうすることしか出来なかったというべきかもしれない。
- 自分の役割
サポートしてくださる先輩、上司そして刺激を受ける同僚と働くうちに私はあるとき考えた。
会社にとって今の私は赤字か黒字か、と。
いつも教えてくださる先輩とさほどお給料は変わらない。途端に申し訳なくなった。
私は頂いているお給料分の力をこの会社に返しているのか。いつまでもサポート役にまわっていては何も前に進まないのではないか。間違いなく、今の私は赤字だ。今までの考えが間違っていたとは思わないが、自分の心得だけで働くことに満足しているのは自己中心的考えで、会社にメリットがない。
自分が成長し会社に貢献できなければ、先輩に、上司に、そしてこの会社に甘えているのと同じだ。
では、今の私になにができるのか。どうしたら自分自身が納得できる黒字社員になれるのか。
- 武器になる
会社に貢献するとはどういうことか。それは「会社の武器」になるという事だ。
誰でも戦うときはより優れた武器を装備したいと思う。それが素晴らしく切れる剣でも、万能な銃でもなんでもいい。それを持っているだけで戦う勇気が湧いてくるような、そういう武器にならなければならない。
武器になるには何かの強みを見つけ、身に着けるということだ。身に着けて磨き上げて初めてそれは「武器」になる。
そうすることで初めて戦力になることができるのだ。
かのスティーブ・ジョブズの言葉に「Stay hungry」(ハングリーであれ)というものがある。まだ足りないまだまだ磨き上げるという強い意志があってこそ人は成長し続ける。
資格をとるのもよし、英語を身に着けるのもよし、自分の「武器」を見つける事がスタートラインである。
- 人の期待を超える
上司は最初、その人の能力でできる範囲内での仕事を与えるだろう。そこがチャンスである。求められることの一歩先まで取り組むのだ。
それがうまくいけば自信に繋がり、失敗したら何がいけなかったのか、次はどうすれば成功するのか考えるきっかけになる。
では、一歩先まで取り組むにはどうするのか。それは、上司の思いを考えることで自然と答えは見つかる。あれもこれもと傲慢に仕事に取り組んで全て中途半端になるのは話にならないが、未経験のことにチャレンジする姿勢は決して無駄ではない。
「これもやってみるか。」と上司から与えられるチャンスも幅が広がっていく。そうして知識を蓄え、経験を積み、信頼される社員になる。全ては会社のためであり、そして自分自身に返ってくるのだ。
自らの力を付ける事に貪欲である社員がいて初めて会社の歯車も動き出す。
- 未来を想像する
しかしながら、安易に頑張ろう!と決意しただけでは今までと何も変わらないだろう。なぜなら人間は「忘れる」生き物だからである。
入社した当時のフレッシュな気持ちもいつしか薄れていく。ドイツの心理学者エビングハウスによると、人間は記憶してから20分後には42%、一時間後には56%、一日後には74%の事柄を忘れると提唱している。
そうならない為に、なにか決意したならば形に残す事だ。メモを残す、日記に書く、なんでもいい。そしてできる限り具体的に自分の未来を描く。一つの大きな目標を達成するために、いつまでに何をするか、そして今どうすべきか深く考えずに書いてみる。
不思議なことに、そうするだけでも日々の意識は変わり、行動も変わるものだ。
明日は電話を誰よりも多く受けよう、そんな小さな目標で同僚より多くの経験値を得られると思うとワクワクしてこないだろうか。
6.さいごに
同世代の人たちに考えてみてほしい。5年後、10年後、ふと自分の歩んできた道を振り返ったとき、なにが残っているだろう。
何もないと落胆するより、自身の築き上げたものが一つでも多くある人生の方が誇らしく、輝いてみえないだろうか。
そういう人生を送るには、会社に周囲の人に必要とされる力をもつ事だ。
小さな努力でも、必ずどこかで誰かがそれを見ている。その努力が実を結ぶのは何十年も先かもしれないが、会社の武器になるにはそれなりの根気と諦めない強い気持ちが必要だ。
「会社の武器」といわれる社員になる為に、今私達フレッシュマンが出来る事は、強い意志とハングリー精神をもってすべての事に本気でチャレンジする事である。