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奈良県について「よそ者」が考える

第10回産業論文コンクール 優良賞
株式会社 呉竹    久 奈央 さん

 

 奈良の会社に就職して5か月が経過した。
 私は高校卒業までの18年間を高知県で過ごし、大学4年間は神奈川県で過ごした。つまり、奈良には縁もゆかりもない。
 そんな私が奈良で働くことになったと報告すると、地元や大学の友人、家族、親戚の皆が必ず聞いてきた。「なぜ奈良なの?」と。
 私は関東を中心に就職活動をしていたが、興味を持った会社が奈良にもあり、ご縁があって入社することになったというのが奈良に来た一番の理由だ。確かに奈良を選んだのは偶然だが、選考で初めて降り立った奈良に大きな魅力を感じたことを私は今でも覚えている。
 とはいえ、奈良に対する県外からの印象が「鹿と神社仏閣」程度だということは容易に想像できたため、家族や友人のこの反応は大いに納得できるものだった。
 では、奈良の魅力をもっと県外にアピールするには何が必要だろうか。大学の卒業論文で地元の観光政策について調査した際、地域振興にはその地域に対して固定概念を持たない第三者、「よそ者」の力が重要だという意見を耳にしたことがある。そこで、私も「よそ者」として奈良の魅力を県外に伝える方法を考えてみたいと思う。 

1.奈良の魅力とはなにか

 奈良には観光資源として歴史的建造物が多く存在するが、他の観光地特有の騒がしさがない。京都ほどの派手さはないものの、日本の古き良き町並みや歴史的建造物をゆったりと回ることができる。また、古い建物が多く残る奈良には古民家を利用した飲食店や雑貨屋も多く、他の観光地にはない雰囲気を味わえる。高い建物がないため空が広いなど自然景観も魅力の一つであると思う。
 これらの点から、完全な観光地化を目指すよりも、「旅行をのんびり楽しみたい」という人たちをターゲットにするほうが合っているのではないかと私は考える。

2.県民の意識改革

 地域振興は行政だけで行うべきではなく、地域住民全体で行わなければならない。その地域の魅力を地域住民が十分に認識し、住民自身がそれを“誇り”としてこそ、県外にも伝えることができると考える。
 ところが実際に奈良へ移り住むと、奈良で出会う人々にまで口を揃えて言われた。「なんで奈良“なんか”に?」と。
 観光客を多く乗せるであろうタクシーの運転手にまで「奈良なんか何もないのに。」と言い放たれたときには唖然とした。
 あまりに故郷の魅力を伝えようとしない奈良に対し、私は奈良“なんか”でこれから暮らしていくのか、という気持ちにさえなってしまった。
 これには控え目な県民性も大きく作用していると思うが、地域住民が自信を持って地域の魅力を発信していけるよう、県内向けアピール も今後進めていくべきであると考える。

2.観光地として最低限の利便性は確保する

 先に奈良は完全な観光地化を目指すべきではないと述べたが、奈良は観光地として最低限必要な利便性を確保できていないと感じる
。例えば、奈良の代表的な観光資源である歴史的建造物は夕方には閉館してしまうことが多い。これは施設の性質上仕方ないとしても、中心街の飲食店でも20時や21時に閉まってしまうところが多い。また、宿泊施設が少ないことも大きな問題である。
これでは観光した後、食事を楽しみ、宿泊するという流れが生まれない。観光客たちは京都や大阪旅行のついでにやってきて、大してお金を使うこともなく日帰りで大阪や京都へ移動する通過型観光ということになってしまう。
 そのため、せめて観光シーズンだけでも観光施設の開館時間や飲食店の開店時間を長くするなど、少しでも長時間滞在してもらえるような努力が必要である。また、公共交通機関の案内整備や観光タクシーの充実など観光地として最低限の利便性は確保しておくべきであると考える。 

3.リピーターを増やす

 “観光地化しすぎない”ということは、一度に多くの人を呼び寄せるよりも、リピーターを獲得することのほうが重要となってくる。
 しかし、奈良公園や東大寺などの代表的な観光スポット以外の認知度がいまひとつ低いこともあり、一度訪れたら満足してしまうという面を持っている。「また来たい」と思わせ、何度も足を運ぶことで観光客自身に個々のお気に入りを見つける楽しみを感じてもらうことを目指すべきである。そのためには、観光客に対する「おもてなし環境」の充実が必要不可欠である。そこで重要となってくるのが、やはり地域住民の存在である。
 観光客が旅行先で交流するのは宿泊施設や観光施設のスタッフだけではない。コンビニの店員に観光スポットについて尋ねるかもしれない。タクシーの運転手にお勧めの飲食店を聞くかもしれない。目の前を歩く住民に道案内を頼むかもしれない。
 つまり、住民全体で観光客を温かく受け入れる体制を構築することこそがリピーター獲得への大きな第一歩だと考える。
 私は奈良に住んでみて、魅力的な場所やお店、イベントは予想していたよりもずっと多いと感じている。確かに商業施設は少なく地味な街だとは思うが、他県とは違うゆっくりした時間が流れる独特な場所だとも思う。今後、奈良“なんか”という言葉を口にする人が少しでも減っていくことを私は願う。

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