CSを通して成長
第10回産業論文コンクール 最優秀賞
奈良ダイハツ株式会社 井戸本 彩花 さん
私は入社をするまで「CS」という言葉を聞いたことがなく、その意味すら知らなかった。そんな私が「CS」について意識するようになった訳は、現在勤めている奈良ダイハツが、2002年から12年連続で、全国のダイハツディーラーのCSナンバーワンを受賞し続けている会社であるからだ。
「CS」とはお客様満足度のことであり、昔から商売の基本とされていることである。例えばたまたま入った飲食店の料理が美味しく、また接客も良いのでその後も通うようになったという経験が誰しもあると思う。今まであまり意識はしていなかったが、それはCSの高い店の魅力を知らぬ間に感じているのである。ただ飲食店のCSと言えば、料理の美味しさという商品力が大事であり、イメージがし易いのだが、車の販売メインのディーラーのCSとはどのようなものか、また事務スタッフの自分が貢献できることがあるのか未知の世界であった。
現在入社3年目で、経理全般、電話応対、書類整理等の事務処理など一通りの業務を任されている。また自席は受付カウンターにあり来客応対(受付、お茶だし)もおこなうため、お客様と触れ合う機会が多くある。お客様の応対を通してお客様の生の声を聞くことで、もっとより良い店にしたい、お客様に満足していただきたいという気持ちが芽生え、自発的にCS向上について考える機会が増えた。
CS向上のために私が取り組み、心がけていることは、以下の3点である。
1.第一印象の良い応対
『第一印象の良し悪しがその後の関係を左右する―』。ビジネスの現場に身を置く方々ならば、身をもってこうした経験をしたことがあるだろう。第一印象が決まる時間は6秒とも10秒とも、30秒とも言われる。ある心理学者は、第一印象は2分で決まって、その後はもう変わらない!と言い切っている。それほど第一印象がお客様に与える影響は大きいのだ。
そこで私が心掛けていることはお出迎えの徹底である。お客様のご来店を確認したら、駐車場まで駆け寄り、駐車の誘導、お車から降りてこられると「○○様ですね、お待ちしておりました。」「○○様、ご来店ありがとうございます。」と笑顔でお声掛けをし、ご来店いただいたことへの感謝の気持ちを伝えている。特に女性のお客様などディーラーの敷居を高く感じ、足を運ぶことに不安を抱いている方に、不安を少しでも安心感に変わるようにと思い日々取り組んでいる。
先ほど第一印象は短時間で決まると述べたが、第一印象を決める3つの要素とその割合は以下になる。
・視覚(見た目)55% ・聴覚(声)38% ・言葉(話す内容)7%
数値から分かるように視覚が第一印象を決める割合の半分以上を占めている。お出迎えをし、お客様とのファーストコンタクトをとることが多い為、笑顔の応対を心掛けている。また自分がお出迎えをしていない場合であっても、お客様の来店、退店時には「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と元気な挨拶を率先して行うようにしている。挨拶は人とのコミュニケーションの基本であり、またCSの基本とも言えよう。
2.お客様に感動を与えるおもてなし
「私のライバルはディズニーランドです。ディズニーランドに行けば、楽しくてワクワクして、感動もいっぱいあって、誰もが笑顔になれる。また来たい!と思う。私はお客様にそう感じてもらえるような応対、環境作りを心掛けています。」
これは就職活動をしているとき、ある企業の説明会で女性の社員の方が話していた言葉である。今でも鮮明に記憶に残っている。当時まだ社会人の経験もなかった私であったが、その方の志に感銘を受け、強く共感し、自分も同じ気持ちをもって仕事をすると心に決めた。社会人になった今も気持ちは変わらない。感動を与えるおもてなしとは何か―、今もなお模索中ではあるが、お客様の気持ちに寄り添い、一歩先をゆく応対、提案を心掛けている。例えばお手洗いの場所を探しているお客様に場所の案内、寒そうにしているお客様にブランケットを利用するかどうかのお声掛け、などお客様から声を掛けていただく前に自分が気付けるように気を配っている。
3.お客様のお名前を覚える
お出迎えをするときにお客様のお名前をお呼びするようにしているのだが、お客様から「名前呼んでもらえたら嬉しいな、ありがとう!」と言っていただいたことがある。この出来事をきっかけでお客様のお名前、エピソードなどを覚えるようにしている。お客様には車を販売した担当営業がおり、担当営業あてにご来店される場合が多いのだが、外回りに出ていて不在のケースがある。その点私はほとんど店にいるので担当営業が不在時でも安心していただけるような存在になれれば、と考えている。
CS向上についての取り組みはすぐに結果を求めるのではなく、継続することが大事だと感じる。また一人だけが取り組んでいても全く意味がない。社員全員が同じレベルのおもてなしをして、同じ気持ちでCS向上に取り組む、しかし一人でも気持ちが欠けていたら返って悪く目立ってしまうのだ。
お客様にご満足いただくことを目指す為には、まずは個人レベルで自分が働いている会社が好きでいて、仕事に対するやりがい、誇りをもつことが基本になると思う。ES(Employee Satisfaction:従業員満足)とCSはイコールの関係ではないか。働いている自分が満足を感じられないと、お客様に満足していただける環境を作り出すことはできない、また心からのおもてなしをすることができないと実感している。
次に、そのために大切なのが職場の仲間の存在だ。一人では壁にぶつかり限界を感じてしまったときも、信頼できる仲間がいれば乗り越えられることを学んだ。店や会社全体のまとまり、つまり良好なチームワークはCS向上に欠かせない要素だと思う。
当社ではQCサークル活動(社員による自発的な職場改善活動)などさまざまな社員による自発的な取組みを継続しており、たとえば毎週行われるミーティングで活発な意見交換がおこなわれる。職場の仲間とのコミュニケーションがとれていて、普段から笑顔で挨拶ややりとりがある店や会社は、良い空気のようなものが生まれ、自ずとお客様に伝わるものだと確信する。
私は入社以来、自分なりに責任感をもって仕事をしてきたし、いろいろな仕事を任せてもらいたい、という向上心を抱いて前向きに働いてきたつもりだが、どこかで仕事のやりがいが見出せずにいた。
だが仕事を通して『CS』に向き合って、どうしたらお客様に満足していただけるか、「また行きたい!」と感じていただけるか、自分なりに考え取り組むことで、お客様目線のよりよい親切なおもてなしの追求、探究心が芽生えた。自分が感動した応対を真似たり、CSの観点で物事を捉えるようになり、より多くのことを吸収したいと感じるようになった。そして何よりも私はお客様、そして一緒に働く職場の仲間の笑顔が好きだと気づいたのだ。
またお客様から直接感謝の言葉、温かい言葉をかけていただき、働くことのやりがいを見つけることができた。もちろんつらいときもあるが、今は心からCSに取り組んできてよかったと感じる。
多くのお客様の笑顔を見るために、そして自分自身のさらなる成長を実感するために、私は今日も笑顔で働いている。