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大切にしたい「軸」

第10回産業論文コンクール努力賞
住江織物株式会社 奈良事業所  岸 達也 さん

 

 就職活動を始める際、就職を決めた研究室の先輩から「なんでもいいから自分自身の軸を持って就職活動していけばいいよ」と言われた。私自身の「軸」は何なのかと考えた際に、「環境」という2文字がすぐに浮かんだ。
 私が環境問題に関心を抱いたのは小学6年生の頃である。総合学習という自らが興味を持った内容について自由に調査を行なう学習を今でも覚えている。当時は、地元である京都府で京都議定書が採択され、京都府内だけでなく日本国内でも環境問題に対する関心が高まり始めた時期でもあった。自動車や工場からの排気ガスを原因とした大気汚染や二酸化炭素など温室効果ガスの増加による地球温暖化、フロンガスによるオゾン層の破壊が深刻な問題であり、今後、海水面の上昇や大雨による被害、異常気象が世界各地で頻発するという予測があることを知り、恐怖を感じた。漠然ではあるが、なんとかして解決させたいという思いを抱いた。総合学習の一環で、京都府内の小学生代表が府知事に学習成果を発表する意見交換会に学校代表として参加し、環境問題について発表をした。このことが、私にとって非常に大きな経験となり、環境問題に対して更に意識を強く持つきっかけとなった。
 それ以後、私は理科に興味があったこともあり、化学を専門的に学べる大学に進学し、大学院では「酵素を用いた空気環境の浄化」という環境に関係するテーマを選択し、研究に取り組んだ。研究に取り組む中で、小学生での総合学習で漠然と抱いた「環境問題を解決したい」という思いを、研究開発に携わることで実現させたいという明確な思いに変わっていった。そして、「環境」を基本理念の一つに掲げる住江織物株式会社に入社をした。
 入社初日、小学生からの環境に対する思いを形にするための一歩をようやく踏み出すことができたと実感した。だが、配属された開発部門で、自身の地球環境問題を解決したい「軸」を今後どのように活かしていくのかという手段や考えについて具体的な部分が明確でないことに気付いた。自身の「軸」を活かしていくための手段や考え、行動を明確にしておくことが、今の私には必要であると思う。そこで、これまでの経験やこれから大切にしたい意識を踏まえて、どのような心構えを持って、行動していくべきかを、技術的な面とグローバルな面から以下のように考えた。

1.技術的な面

 技術的な面では、開発に対する考え方という点で大学院での経験を活かすことができると考えている。私は、所属していた研究室で企業との共同研究に携わっていた。その共同研究を通して開発という仕事にわずかながらも触れることができ、学生ではまず経験することのできない価値のある3年間を過ごすことができた。中でも、定期的に行う企業との打ち合わせが印象に残っている。競合商品と比較して性能やコストはどうか、その技術に弱点や課題はないか、製品として長期間使用可能かなど、企業の担当者から聞かれることは学会ではまず追求されないことであった。共同研究開始当初はその質問に対して的確に答えることができなかった。だが、その質問こそが企業における開発の着眼点であることに気づき、開発という仕事がどういうものなのかというイメージを持つことができた。この経験は、新入社員の中では一歩リードした状態で社会人のスタートを切ることができるという自信にもなった。
 しかし、実際に開発という仕事に関わってみると、学生時代に開発に携わった経験だけでは不十分であり、自社製品になくてはならない繊維に関する知識が不足していることを実感した。配属当初に出席した会議で飛び交う用語すら理解できなかった。だが、日々の業務や会議への参加を重ねるごとに、配属当初よりも繊維の知識や自社技術に対する理解を深められているという実感を持っている。これからも業務に取り組む中で、更に知識や経験を積み重ねていきたい。
 そして、数年後には大学で得た知見を活かしたモノづくりに携わり、自身の知識の幅をより広げていきたいと考えている。研究室時代の企業との共同研究では、企業にとって大学との連携が新規技術を確立する大きな力になることを実感し、大学側の研究分野に関する知識の全くない企業の方が、新規性を求めて大学と関わっていく姿勢に魅力を感じた。同時に、企業の持つ技術と大学で行われている最先端の研究が融合することが新しいものを生み出す際に企業にとって非常に大きな力となるのだと感じた。
 また、大学と連携することで企業の成長だけでなく、私個人としても成長できると思う。環境に関する技術を含めて大学での専攻分野以外に関しては無知なことが多い。そのため、あらゆる知見や考え方に触れることで、個人としても成長し、幅広く活躍したいと考えている。
 このように、技術的な面としては大学院での経験を活かすことと自社技術に関する知識、更には新たに異分野の知識を取り入れることを意識して行動していきたい。

2.グローバルな面

 地球環境問題の解決に向けては、一国のみの問題でないことからグローバルな視点を大事にしたい。研究室での共同研究においてもターゲットは中国や新興国であり、これからは世界に向けた視点を持つ心構えを持っておくことが必要なのだと感じた。
 まず、世界全体で解決が急務となっている課題が何か、どのような環境技術が注目されているのかというように、アンテナを張り、情報を把握する意識を持つ。更には、自分自身の興味の幅をより広げていきたい。新聞や海外雑誌、インターネット等からの情報入手はもちろん、展示会や講演会への積極的な参加を通してあらゆる知見を得たい。また、業務に関係することに限らず、休暇の際に海外に足を運んで技術や文化に触れたりすることで、知識としての引き出しを多く持つことができ、それを業務に活かせる機会があると思う。普段の業務の中で世界へ意識を向けることは難しいが、今挙げたことを意識して、行動していく。
 その際に、英語力やコミュニケーション力、簡潔に筋道立てて説明するための論理的思考力といった基礎となる力も必要となる。自己啓発として日頃から取り組むことでこれらの力を身につけ、世界に向けて臨機応変にアプローチできる企業人を目指したい。
 グローバルという面では、世界各国の環境技術に目を向けること、自身にとって基礎となる力を身につけることを心がけていく。
 技術、グローバルという面で、これまで抱いてきた環境という「軸」を活かすだけでなく、更に「挑戦」の姿勢も意識して行動していきたい。
 今後、開発という仕事を進める中で、全く新しいものを作ることに未知なことは多く、世界と関わることにも言葉や価値観というような壁が無数にある。私は、まだフルマラソンをスタートしたばかりであり、これから長い道のりの中に幾つもの上り坂が待ち構えている。そういった坂を一つ一つ乗り越えるためにも、今回述べた「軸」を活かす心構えを大事にし、何事にも諦めることなく挑戦し続け、小学生の頃抱いた思いを実現させたい。

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