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モノづくりとデータ共有

第1回産業論文コンクール 優秀賞
光洋サーモシステム(株) 成毛 洋輔さん

1.はじめに
日本経済を支えてきたのは、「モノづくり」である。これは、製造業がGDPの22%(02年)、雇用面でも19%(02年)、輸出に占める工業製品の割合が実に94%(03年)を占めるという数字からも表すことができる。同年の世界一の経済大国アメリカでは、GDPの14%、就業者の13%という数字から比較すると、より製造業が日本経済を支えていることが顕著にわかる。
しかし、日本社会は、少子高齢化の波が押し寄せている。これは、製造業にとって大きな打撃を受ける原因の一つになるといわれている。少子化に伴い、20歳から34歳の人口が、2000年の2732万人から、2010年には、2283万人、2020年には、1892万に減少すると推定されている。また、製造業を一貫して支えてきた団塊の世代が定年期をむかえ、大量に退職する「2007年問題」が間近に迫ってきている。 
つまり、技術(技能)の質の低下という問題に製造業は、直面している。では、この問題に、どのように取り組めばいいか考えたいと思う。

2.データの共有化
「技術=企業の資産」であると私は考えている。なぜなら、企業の核となる製品を作り出すのは、個人の培った経験を活かした技術が礎となっているからである。
だが、熟練技術というものは、日々の成功や失敗の経験から獲得することができる知識やノウハウである。同時に、文書やデータとして残しにくい暗黙知であるという性格も併せ持っているため、継承が難しく、企業の資産になりにくいという欠点も兼ね備えている。このような技術者の質の低下を防ぐには、「データの共有化」が必要である。付加価値の高い製品を作るためには、企業の不可欠な技術を守り、そして育てるためにも重要なことである。そのためには、3段階の取り組みを強化すればよいと思う。

2‐1.OJT教育
「データの共有化」の第一段階として、「OJT教育の強化」である。OJTには、個人の2つの力を学ぶ場であると思う。
まず、一つは「視覚」を学ぶ。「現地現物」という言葉があるが、製造部門では重要な考え方である。実際に自身の目で確かめ、自分の耳で音を確かめ、製品のことを学ぶ。いわゆる研ぎ澄まされた五感を持つために鍛える場としては、最も単純で効果的な手段である。
五感の中でも、「視覚」は重要である。最もモノづくりで利用されるからだ。製品の仕上がり具合を見る、不具合を見る、熟練者の作業を見ると言う行動は、必ず行う行動である。その中で、この色や形、やり方であれば良いという経験を習得し、技術の基礎を固めることができる。視覚を活用し、経験を積むということがOJTでは重要である。
次に、「考える」ことを学ぶ。マニュアルが存在しない製造方法は無いだろう。マニュアル通りやれば、ある程度うまくはいくが完成はしない。なぜなら、マニュアルは技術全体を書き表したものではなく、その一部であるからだ。残りの部分は、例えば熟練者の話を聴き、作業を「考える」という行動が必要である。考えることにより、作業の意味や作業への思いを深めることにより、技術への熱意を高める。「好きこそ物の上手なれ」ということわざがあるように、考えることにより発展的に生じる熱意は、技術継承への時間を短縮する要因の一つになる。
マニュアルは技術を継承させるツールとしては、不完全である。より確実にするためには、常にもっとよいやり方は無いかを自身で考えて、マニュアルに加えていく必要がある。さらに考えることにより、工程での改善点や問題点が見えてくる。
OJTによって、考える力がつくと第二段階への取り組みを容易にすると私は思う。
2‐2.QC活動
QC活動が、「データの共有化」の第二段階である。工程での改善点や問題点は、個人的には解決できないことや各人が共通に考えていたことが多い。そのような時は、職場の改善を考えるQC活動を行う。一つの問題に対し話し合いなどを通じ、様々な考えや技術を表出化できるからだ。
なぜ、話し合いではなく、QC活動か。それは、QC手法の「特性要因図」によって、説明できると思う。特性要因図は、問題内容(特性)とその原因と考えられるもの(要因)とを図式的にまとめたものである。長年にわたる試行錯誤の経験を持つ熟練者には、実際に獲得した要因を持っている。
つまり、経験から得た数多くの特性要因図を頭の中で所有している。この頭の中にある特性要因図を実際に表出することにより、継承者がOJTで経験できなかった技術や考えを学ぶことができる。
さらに、一つの問題に向け、解決を目指すというベクトルを一致させることで、技術の伝承に必要な作業のノウハウや経験を共有することができる。これは、個人的なレベルだけではなく、集団的なレベルへと「データの共有」の手助けをする。このように、QC活動は、問題点や改善点を解決し、品質を向上させるだけでなく、共通の技術、つまりその企業の資産へと導くツールになる。
2‐3.IT化
QC活動で得られた技術や考えを共有化するのに、最も適しているのが、「IT化」である。これが、「データの共有」の第三段階である。
すでに、設計部門や開発部門などのIT化によって、開発プロセスのデータの共有化は進んでいる。しかし、熟練者のノウハウや知識の蓄積が遅れている。そこで有効な方法として、製造工程を分析し、システム化可能な項目を抽出し、普遍的な形式知へと変換するツールとして、ITの活用である。伝承すべき技能を「みえる」ように、ITを活用したコンテンツを作成、蓄積すればよい。
例えば、作業を撮影し、なぜこのような動きをするのか、なぜそうなるか(そうするのか)を、技術者で十分に議論し、十分に分析を行う。コンテンツを作成する行為自体が、従来は見えてなかった技能ノウハウの伝承へともつながる。
また、デジタル機器を用いて撮影すれば、編集にて静止画の解説と動画の解説の両方を構成すれば、工程の分割と階層構造に整理ができる。技術がわかりやすくなると操作性も向上を行うことができる。作業だけではなく不具合や規格といった関連情報も含めることができ、品質向上に一役買うことになるだろう。
以上のように、ITを利用することで「データの共有化」された、標準化されたツールとして、後継者への効率的で確実な伝承の教材として用いることができる。

3.まとめ
このように、技術の伝承には、個人的な「OJT」の活用、小集団的な「QC活動」への取り組み、組織的な「IT化」というように、螺旋的に展開し、「データの共有」する取り組みを行えばよいと思う。そうすれば、企業内で根気強く高め、蓄積してきた技術やノウハウなどの「データ」を使って、高い機能や品質、顧客の感性に訴える性能といった付加価値を「造り込みこんでいく」ことができる。これは、造り込み型技術とも呼ばれ、コアコンピタンスに据えることができる企業の資産である。
暗黙知を形式知として共有する「データ」は、企業の資産となり、技術(技能)の質の低下という問題を解く鍵になる。個々の企業が、「データの共有」を行い、企業の力を高めていけば、製造業はより発展していくと私は思う。

〈参考文献〉
・経営戦略論 1996年 有斐閣 石井淳蔵・奥村昭博・加護野忠男・野中郁次郎他
・日本の技術レベルはなぜ高いのか 2002年 PHP文庫 風見明

〈参考ウェブサイト〉
・日本経済新聞 http://www.nikkei.co.jp
・経済産業省 http://www.meti.go.jp/
・日刊工業新聞 http://www.nikkan.co.jp/

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