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高付加価値時代に入社して

第1回産業論文コンクール 努力賞
小山(株) 池田 卓史さん

バブル崩壊から数十年を経て情報化・国際化の波が押し寄せ、ニーズ&ウォンツは多様化し続け、日本の産業を取り巻く環境は目まぐるしく変化し、様々な構造改革がなされてきた。その甲斐あってか、ここ最近の新聞紙上にはようやく「景気回復の兆し」「踊り場脱却」などの文字が紙上に躍るようになった。一方企業に関しては、欧米型統治システム(コーポレートガバナンス)を推進・導入する動きが活発になった。その要因はこれまでの日本型統治システムが時代と環境に合致しなくなってきたからである。
これらの統治システムは、戦後の日本経済の成長と繁栄を下支え、当時にあっては役割と機能を十分に発揮した、しかしグローバル市場における企業間競争の時代に、環境不に不適応とされ機能不全または機能停止に陥ったと見るべきであろう。
確かに日本全体の景気は上向きに転じつつある気配は感じられるようになってきたものの個々の企業を見ると厳しい状況は終焉を迎えたとは言えないのでは無いだろうか、それでは現在の状況を打破するために今企業に求められるものはなんであるかを、基本に立ち返り考えてみる。

(1)企業側の視点
イ)リ・ストラクチャリング
これは「従業員の解雇」意ではなく、本来持つ「事業の再構築」であり、事業構造の見直し・コスト構造の見直しをもう一度本腰を入れて行う必要があるということである。
コスト削減のために一番大切なのは、人員削減ではなく、いかにして人材を上手く使い、生かすかを考えることである。死んだ人材を無くし、人材におけるムリ・ムダ・ムラを排除する必要がある。これは当然のことであると同時に難題であり続け、人材が正常に機能しているかを常に見直しを行うことが、企業を潤滑に運営するためには欠かせない恒久的な課題である。
ロ)クロス・ファンクショナル・チーム
企業に存在する経営陣・営業・生産・購買・マーケティング・総務・人事・経理等様々な部門を個々のファンクションで独自考えるのではなく、それらをクロスさせてファンクションを超えたチームを作る。
クロスさせる事によって知識や方向性が固定化することなく、常に柔軟に対応・発想が可能となる。但しそのためには、それぞれのメンバーがプロフェッショナルであり目標を共有し一丸となったチームとして機能する必要がある。
ハ)外部取引への移譲
内部管理コストを削減するために外部取引コストへ移譲するのである。アウトソーシング(※1)・ネットワーク企業(※2)・B2Bマーケティング(※3)などを活用し、組織の作り方を見直すことによるコスト削減を行う。そして内部コストの余剰を企業の潤滑油として活用する。
ニ)企業目標・ビジョンの明確化
全社員が企業目標を共有し、ビジョンを共有する。そして各部門の数値目標、ビジョンを割り出し、目標達成軸を構築する。また各部門間のギャップを埋めるための関係軸を構築する。ギャップの解消に必要なのは上から下への目標でなく、全社員の総意としての目標を定めることである。

これらを踏まえて、企業はバブル崩壊前の日本型コーポレートガバナンスではなく、日本の特質の新しいコーポレートガバナンスを構築する必要がある。最近は欧米型コーポレートガバナンスを模倣する傾向があるようだが、日本の終身雇用や、年功序列にも愛社精神を生み出す、長期スパンで計画・実行ができるなど様々な長所は存在する。
であるから、それらの制度を形骸化したものではなく、生きた制度として活用できる手法を創造し、新たな新日本型コーポレートガバナンスを構築すればよいのではないだろうか。

(2)客側に立った視点
イ)ニーズ&ウォンツの変化
現代の日本人のニーズ・購買動機は多様化し続けており、商品の使用価値もさることながら、付随サービス・ブランド価値・新商品への選考・環境への影響などの比重が増加傾向にある。
それらをもう少し噛み砕いて言うならば、便利な商品・満足度が高い商品・信頼性が大事・幸せになる商品・ブランド価値がある商品・人に自慢できる商品・何回も使える商品・長持ちする商品・楽しく生活ができるもの・心が安らぐ商品・環境に優しい商品などがある。
このようにニーズ&ウォンツは生活を豊かにするものへの比重が高くなっており、企業は常に市場動向を観察し、新たな商品を開発する必要がある。
ロ)グリーン・マーケティング
国際的な環境への取り組みが行われている昨今、消費者の環境への関心が高まりグリーン・コンシュマーの比率が増加する中、企業は環境への配慮を無視できなくなった。
従来企業にとって環境への配慮は絶対的必要なものではなかったが、主導権を持つ消費者の環境への関心が高まることにより、企業は利益を追求のためにコストをかけてでもグリーン・マーケティングを推進しなければならなくなった。

消費者に目を向けてみると、インターネットの普及、自由報道などによって自由に情報を得られるようになり、市場には物が溢れ無数の選択肢が用意される。そしてそれらは消費者の目を肥やし良い物、自分の価値観に相当するものだけを、購入する『賢い消費者』を創造した。
これは消費者からすると望ましい傾向なのだが、企業側からは、高度成長期のように、「いいものを安く確実にお届けする」だけでは消費者に満足して頂けない時代であり。高付加価値を付ける事によってやっと満足して頂ける厳しい時代である。
また時として商品を生産している企業そのものが購買動機を直接的に左右する要因になる。これらの意味するところは、『賢い消費者』の心を動かすには企業は、高品質商品の創出の他に『賢い優良企業』であることが求められるようになったのではないだろうか。
つまり戦前の企業がプッシュする事によって物が売れた「PUSH型市場」は終わり、お客様に本当にいいものと思って頂ける「PULL型市場」へ移行し、商品を作る主導権は企業側から顧客側へと移譲したのである。お客様の心をPULLするためには、良い商品を生み出す企業であるだけでなく、お客様の気持ちを考え、生産現場ではなく市場を軸とした、お客様に優しい企業でなければならない。

結論
企業の進むべき道とはなんであろうか。私の思うところは、日本の長所、欧米の長所を凝縮した新日本型コーポレートガバナンスを構築すること、決して一つの形、過去に捉われない新しい形の統治を生み出すこと、そしてそれは企業ごとに適応した形式であってよいのではないか。
つまり日本の企業数と同じだけのコーポレートガバナンスがあってよいのではないだろうか。模倣の時代は終わった、これからはイノベーションの時代である。その渦中においての基本とは、「顧客と社員の壁・社員と社員の壁・一社員と管理職の壁・部門と部門の壁・経営者と部門の壁」これらすべての壁を排除し顧客から経営者までが意識を共有する。
そして顧客から経営者まですべての関わる人々をチームとして認識し情報・目的・意識を共有し一つの物を作り出す。そのような認識が必要とされるのではないか。また少子高齢化が進み、労働人口の減少が危惧される昨今、人材確保の面においても企業は選択される側に回りつつある。
そこで求められるのは「仕事の場」「成長の場」としてだけでなく、「生活の一部」としての職場、つまり少子高齢化の中において、広い意味において育児や介護を支援し時代に適合し得る企業が求められるようになった。
この混沌とした現代を生き抜くためには、作られた指標に従うのではなく、新たな企業の形を創造しなければならない。イノベーションを行える企業であるためには、内部構造においても、既存の形に捉われずイノベーションし続ける企業で無くてはならないのではないだろうか。そして私は自社にとって稼げる社員、つまり刺激を与えイノベーションを促進しうる「高付加価値創造型社員」を目指したい。

参考文献
「価格革命」のマクロ経済学 著:西村 清彦
次代のリーダーたちへ 日本経済新聞 電子メディア局

※1 専門会社への外注・外部移管
※2 自社活動を得意分野に特化し、ニーズの変化に応じて下請業者やコンサルタントとネットワークを形成する企業。
※3 企業間取引のマーケティング

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